あとちょっとで読み切ります。
時代に取り残された老作家の話。
若いのに古き良き時代の雰囲気を漂わせる美しい女、お雪ちゃん。
久しぶりに味わう荷風の世界観にしっとり浸りつつ。
読んだ時期も良かったですね。
ちょうど、物語の季節とピッタリの、夏~秋にかけての読書でした。
正直、この小説に出てくる細かい散歩道の描写はさっぱり分かりません。
が、それは何となくの想像にまかせて読み流し。
とにかくお雪ちゃんが素敵。
なつっこくて、悲嘆的でなく、あまり物事にこだわらないお雪ちゃん。
お雪ちゃんが老作家の額にとまった蚊をペチッとやるシーンにはキュンキュンしました。
一方、次のは2階の窓辺で白玉を食べながら外を通る男とやりとりするやんちゃなお雪ちゃん。
「よう、姉さん、ご馳走さま。」
「一つあげよう。口をおあき。」
「青酸加里か。命が惜しいや。」
「文無しのくせに、聞いてあきれらア。」
「何いってやんでい。溝ッ蚊女郎。」
「へッ。芥溜野郎。」
とこんな調子でこざっぱりした性格が描き出されます。
相手にあわせて変幻自在な対応をするお雪ちゃん。
そんなお雪ちゃんに主人公はこう感慨を述べます。
お雪は倦みつかれたわたくしの心に、偶然過去の世のなつかしい幻影を彷彿たらしめたミューズである。久しく机の上に置いてあった一篇の草稿はもしお雪の心がわたくしの方に向けられなかったなら、───少なくともそういう気がしなかったなら、既に裂き棄てられていたに違いない。お雪は今の世から見捨てられた一老作家の、他分そが最終の作とも思われる草稿を完成させた不可思議な激励者である。わたくしはその顔を見るたび心から礼を言いたいと思っている。
老作家とお雪ちゃんとはあいまいな関係のまま作品は終わっていきます。
あとちょっとで読み終えるのが惜しい気もしますが。
さて、次は何を読み返そうかなあ。
先日書いたとおり『夢十夜』ですかね。
まあ、気分次第です。
[ 墨東綺譚 ]
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