ナポレオンと田虫


『蠅』について書こうと思っていましたが、昨日のコメントで『蠅』が出ちゃったからやめました(笑)

同じ岩波文庫に所収されている横光利一の『ナポレオンと田虫』。

ナポレオンとはもちろんあの有名なナポレオン・ボナパルト。

ナポレオンの絵と言えば、「アルプス越えのナポレオン」が非常に有名です。

でも、この絵もたぶん有名なんだろうと思います。

右手が服の中に入っているのについては胃痛説や皮膚病説があるそうです。

この小説ではタイトル通り、皮膚病に大きく比重がおかれています。

ここで描かれるナポレオンは肥えたオヤジとして描かれ、英雄的な雰囲気は微塵もありません。

冒頭の一文を書き出してみるとこんな感じです。


ナポレオン・ボナパルトの腹は、チュイレリーの観台の上で、折からの虹と対戦するかのように張り合っていた。その剛壮な腹の頂点では、コルシカ産の瑪瑙(めのう)の釦(ボタン)が巴里の半景を歪ませながら、幽かに妃の指紋のために曇っていた。


という。

その立派な腹に「田虫/頑癬」があった、というのがこの小説の重要な設定です。

掻けば掻くほど田虫が拡大していくのに伴い、ナポレオン(フランス)の勢力図も拡大していく、という展開。

まるで、田虫への復讐のように躍起になって勢力を拡大していくナポレオン。

ところが、ルイザという高貴で美しい娘と再婚すると、劣等感からロシア侵攻を断行し身を滅ぼしていきます。

もっともロシアでの惨敗はにおわせる程度で終わっていますが、それもまた良いですね。

たぶん、ロシアの話を細々と書いていたら、ダラけてしまっただろうと思います。

これまた、とても面白い短編です。

 

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