~前回までのあらすじ~
1)中宮様が出産のために内裏を離れ、大進生昌の邸にお移りなさることになりまちた。ところが生昌邸の北門は狭くて牛車のまま入ることができず、私たち女房は庭を歩いて屋内に入ることになってしまいまちた。
2)ひどい目に遭ったことを中宮様に報告していると生昌がノコノコやってきたのでガツンと言ってやることにしまちた。
3)思い切り生昌に詰め寄ると、生昌はしっぽを巻いて逃げていきまちた。
前回、華麗に生昌を仕留めた(笑)清少納言ちゃん。
今回は寝ている間の出来事です。
【原文】
おなじ局に住む人々などして、よろづのことも知らずねぶたければ、みな寝ぬ。
東の対の西の廂、北かけてあるに、北の障子に掛け金もなかりけるを、
それもたづねず、家あるじなれば案内を知りて開けてけり。
あやしく、かればみたる声にて、
「さぶらはむはいかに、さぶらはむはいかに」とあまたたび言ふ声にぞおどろきて見れば、
几帳のうしろに立てたる燈台の光はあらはなり。
障子を五寸ばかり開けて言ふなりけり。いみじうをかし。
さらにかやうのすきずきしきわざ、ゆめにせぬものを、
わが家におはしましたり、とてむげに心にまかするなめりと思ふもいとをかし。
【語釈】
◯「おなじ局に住む人々などして」
「して」は格助詞。手段・共同・使役の対象、などを表す。ここでは共同。
◯「東の対の西の廂、北かけてあるに、北の障子に掛け金もなかりけるを」
東の対(ひんがしのたい)というのは貴族の住む邸の東にある建物。左図参照。このような建築様式を「寝殿造り」という。正殿にあたる寝殿から渡殿(=渡り廊下)で北・東・西にある別棟の建物につながっている。庭には池が作られ、人工的に島も作る。島には橋が架かっていて渡れるようになっている。池には外から水路で水を引いてきている。この水路のことを「遣り水(やりみず)」という。ちなみに、庭にある植え込み(左図では省略)のことを「前栽(せんざい)」という。西の廂(ひさし)も図にしてみようと一瞬思ったのですが、あまりのめんどくささに断念(笑)。国語便覧などを参照してください。ここでは西廂が北廂に面していて、その間にある襖障子に掛け金がついていない、ということを言っている。
◯「それもたづねず」
「たづぬ」には、質問するとか訪問するとかいう意味の他、「探す」の意味があり、ここではそれ。
◯「案内」
スーパー重要語。「①取り次ぎを求めること②事情③事情を知らせること」などの意味がある。ここでは②の意味。
◯「かればみさわぎたる声」
「かればむ」は掠れているということ。「さわぐ」は落ち着かない様。
◯「さぶらはむはいかに」
ここでの「さぶらふ」は「行く」の謙譲語。参上する。「む」は仮定・婉曲の助動詞。「いかに」は「どうか」ということ。直訳すれば「参上するとしたらどうか」となり、つまり「そちらに伺ってもよいですか」ということ。
◯「おどろきて見れば」
「おどろく」はスーパー重要語。「①目覚める②気がつく」の意味を持つ。ここでは①。
◯「さらにかやうのすきずきしきわざゆめにせぬものを」
「さらに~打消」で「決して~ない」の意味。「ゆめ~打消」も同様。「すきずきし」は重要語で「①好色だ②風流だ」の意味を持つ。ここでは①。「ものを」は「~なのに」の意味。
【現代語訳】
同じ部屋に住む若い女房たちと一緒に、色々とよく分からないままに眠たかったので、みんな寝てしまったの。
この部屋は東の対の西廂にあって、北廂に面していて、北側の隔ての襖障子には掛け金もなかったのだけれど、
生昌はそのことを探ったりしなくても、家の主人なものだから内情を知っていて、開けてしまったのよ。
奇妙に、掠れた落ち着かない声で、
「伺ってもよろしいですかな。伺ってもよろしいですかな」と何度も言う声に目が覚めて見てみると、
几帳の後ろに立ててある燈台の明かりが周囲を丸見えにしていたわ。
生昌が襖障子を五寸ほど開けて言っていたの。とってもおかしかったわ。
決して、そんなイヤらしいことは絶対にしない人なのに、
自邸に中宮様がおいでになったもので、やたらと思いのままにふるまうみたいね、と思うにつけても、とてもをかしいわ。
という。
今回はまた次への序章で、中宮様に宿を提供したことで気が大きくなっている生昌の行動でした。
この章段は最初にも書いたとおり、たいした内容でもない気がするんですが、
読んでいるうちに次が楽しみになってくる、そんな感じだと思います。
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