結婚?ナニソレオイシイノ(o゜ー゜o)??
みたいなことを孫悟空が言っていたような気がしますよ、『ドラゴンボール』で。
ていうかドラゴンボール落ちてないかな、横浜に7つ。
そしたらおれも結婚するよ。
誰かと。笑
今回は『伊勢物語』のそんな話です。
【現代語訳】
昔、ある男がへんぴな村里に住む女のもとに通って暮らしていた。
男が、宮仕えをしに行くといって、別れを惜しんで行ってしまったまま、三年通ってこなかったので、
女は待ちくたびれて、
とても熱心に言い寄ってきた別の男に「今夜会いましょう」と約束していたその時に、もとの男が来てしまった。
男は「この戸をお開けください」と叩いたが、女は開けずに歌を詠んだ。
あらたまの・・・〔あなたのことを三年も待ちましたが、もう待ちくたびれたので、ちょうど今夜別の殿方と初めて枕をともにするのです〕
と声に出して詠んだところ、男が、
梓弓・・・〔弓には梓弓・真弓・「槻」弓などとある、その「つき」ではないが、多くの年月を経て私があなたにしたように、その方を愛しておやりなさい〕
と言って立ち去ろうとしたので、女は、
梓弓・・・〔あなたが私の気を引こうと引くまいと、昔から私の心はあなたに寄り添っておりましたのに〕
と言ったが、男は帰ってしまった。
女はとても悲しくて、後ろから追いかけて行ったが、追いつくことができず、清水が湧き出る所に倒れ込んでしまった。
そこにあった岩に、指の血で書きつけた。
あひ思はで・・・〔私の片思いで愛してくれなかった方を引き留めることができなくて、私の命はもう潰えてしまうようです〕
と書いて、そこで死んでしまったのであった。
死ぬか?ふつう。笑
まあね、物語ですからね、別にいいんですけどね。
にしても、3年って・・・ちょいとつらくはありませぬか?
しかし、3年ルールというのがあるのです。
【3年間男が通ってこなかった場合、女の方から離婚して、別の男と結婚することができる】
一般的にこの文における「3年」はこのルールで説明されるかと思います。
確かにドラマチックですね!
ちょうど3年経ち、諦めて他の男と初夜を迎えようとした時に夫が帰ってくる、という。
運命のいたずらとはこのことか、っていう。
が、厳密にはこの3年ルールはこういうことらしいです。
【結婚していても、夫が海外で行方不明となった時は、二人の間に子があれば五年、子がなければ三年、夫が帰ってこない場合に、及び夫が逃亡した時は、二人の間に子があれば三年、子がなければ二年、夫が出てこない場合に、女は他の男と結婚できる】
当時、女性の側からの離婚はこのケースしか認められなかったそうです。
うーん、そうなると、3年ルールで説明して良いのかしら?という気がしますね。
この3年ルールで説明しようとするなら、この夫を逃亡とみなし、さらに2人の間には子がいた、ということになります。
まあ、それでもいいと思います。笑
あるいは慣習法みたいに拡大解釈されて、
基本的に3年通って来なかったらOK、みたいになっていたという可能性はあるのかしら?
または、この本文の3年というのに対して法的根拠を結び付けないか。
とにかく、何にせよ、好きすぎて死んだ、という話でした。
【原文】
昔、をとこ、かたゐなかに住みけり。
をとこ、宮仕へしにとて、別れ惜しみてゆきにけるままに、三とせ来ざりければ、
待ちわびたりけるに、
いとねむごろにいひける人に、今宵あはむと契りたりけるに、このをとこ来たりけり。
「この戸あけたまへ」とたたきけれど、あけで、歌をなむよみていだしたりける。
あらたまの年の三とせを待ちわびてただ今宵こそ新枕すれ
と言ひいだしたりければ、
梓弓真弓槻弓年を経てわがせしがごとうるはしみせよ
と言ひて、いなむとしければ、女、
梓弓ひけどひかねど昔より心は君によりにしものを
と言ひけれど、をとこかへりにけり。
女いと悲しくて、しりにたちて追ひゆけど、え追ひつかで、清水のある所にふしにけり。
そこなりける岩に、およびの血して、書きつけける。
あひ思はでかれぬる人をとどめかねわが身は今ぞ消えはてぬめる
と書きて、そこにいたづらになりにけり。
【語釈】
◯「いとねむごろにいひける人」
「ねむごろなり」はスーパー重要語。①懇意だ、②熱心だ、丁寧だ、などの意味がある。ここでは②で、熱心に言い寄ってきた男、と言っている。
◯「今宵あはむと契りたりけるに」
男と女が「あふ」という場合には、男女の関係を結ぶということ。「契る」は重要語で、約束する、の意味。
◯「あらたまの」
枕詞で「年」「月」「日」「春」などの語を導く。
◯「梓弓真弓槻弓」
序詞。「槻弓(つきゆみ)」の「つき」に「月」が掛けられ、その後の「年(を経て)」を導く。
◯「うるはしみせよ」
「うるはしみす」で一単語。「麗しみす」と書く。かわいがる、親しみ愛する、という意味。ここでは命令形の形になっている。
◯「梓弓」
枕詞。「引く」「張る」「射る」などの語を導く。
◯「しりにたちて追ひゆけど」
「しり」は「後ろ」の意味。後ろに立って(後ろから)追いかけていくが、ということ。
◯「え追ひつかで」
「え」は重要な呼応の副詞。打消の語句と組み合わさり、「~できない」と不可能表現を作り出す。ここでは接続助詞「で」が「~しないで」という打消の意味を持つので、それと組み合わさり「追いつくことができないで」という意味を作っている。
◯「そこなりける岩に」
ここでの助動詞「なり」は「存在」を表す。「~にある、いる」と訳す。
◯「あひ思はで」
「あひ(相)」+動詞は、①互いに~、②下の動詞の強調、の2つの場合がある。ここでは①。「思ふ」は、愛するの意味なので「互いに愛する/愛し合う」だが、下に打消接続の「で」があることにより、「互いには愛し合わないで」ということになる。つまり女が一方的に愛し、男からは愛されなかった、ということ。
◯「いたづらになりにけり」
「いたづらになる」はスーパー重要語。死ぬ、の意味。