沙石集~鳥なき島の蝙蝠~


土佐の戦国大名に長宗我部元親という人がいます。

織田信長が彼のことを「鳥なき島の蝙蝠」と評していたそうです。

優れた者がいない所で幅をきかせる小人物、という意味の慣用句です。

「戦国無双」というゲームをやっていても長宗我部元親のところでこの慣用句が出てきます。

ていうか、武器が三味線ってどういうことよ!!!っていうゲームですよね。笑

このゲームでの長宗我部元親は本当に使いにくい・・・

というのはまったく関係なくて(笑)ある説教師の話です。


【現代語訳】
奥州で、ある僧侶が卒塔婆供養をしたのだが、
まったく学識もなかったけれど、「鳥なき島の蝙蝠」であり、その役目を譲る人もなくて、
あてずっぽうに供養をした。
「卒塔婆については、その名がついたゆえんと、その効能とを申し上げましょうかの。
まずその名について講釈すると、『卒塔』というのは外に立っているから『そと』というのじゃ。
でもって、バッと倒れるから『婆』というのじゃ。
次にその効能を説明すると、卒塔婆の頭はよく研いだ上にも研ぐべきものじゃよ、よーく研ぐべきものじゃよぉ」
とたびたび口ずさんで、
「そのわけは、地獄の釜の底を、この卒塔婆でもって突き破る計略なのですじゃ」と言った。


アホか、って話ですね。笑

卒塔婆(そとば)というのはお墓の後ろに立てる立て板ですが(

サンスクリット語(古代インド語)で仏塔のことを「ストゥーパ」といった、その音写です。

木製のものばかりでなく、石塔も卒塔婆と言います。

仏塔の形を模写したのが木製の卒塔婆で、だから先端が尖っているのです。

決して釜の底に穴を開けるためではありません(笑)


【原文】
奥州に、ある僧、卒塔婆を供養しけるに、
大方才覚もなかりけれども、鳥無き嶋の蝙蝠にて、譲る方なくて、
おしはからひてしける。
「卒塔婆には、名の付きたる故と、功能とを申すべく候ふ。
名を釈せば、『卒塔』と云ふは、外に立つる故にこそ、『そと』と云ふ。
ばと倒るる故に『婆』と云ふ。
功能を云へば、卒塔婆の頭、研いでもよく研ぐべき物かな、よく研ぐべき物かな」
とたびたびながめて、
「その故は、地獄の釜の尻を、突き壊し候ふはかり事」とぞ云ひける。

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