「ずっと前、まだ身分も低かった頃ですが、心を寄せる女性がいました。
さきほど申し上げましたような感じで、さほどの美人でもございませんでしたので、
若い頃の愛欲では、この人を生涯の伴侶にしようとは思いませんでした。
妻だとは思いながらももの足りなくて、あちこちと別の女性に手を出していましたが、
その妻がひどく恨むものですから、それが気に入らなくて、
こんな風ではなくてもっとおっとりしていたらなあ、と思いつつ、あまりにも厳しく疑ってくるのが鬱陶しくて、
パッとしない私など見捨てればいいのに、どうしてこんな風に思ってくれているのだろう、
と心苦しく思う時もたびたびございまして、自然と浮気心がしずまるようになりました。
この女は、もともとは考えの及ばなかったところも、私のために何とか手をつくし、
劣っている点についてもがっかりさせまいと励んで、
何かにつけて私の面倒を熱心にみてくれて、
気に入らないなどとは絶対に言わせまいとする様子に気の強さも感じましたが、
とにかく私に心を寄せておしとやかになっていき、
美しくない容貌も、私に疎まれるのではないかと無理に化粧をして取り繕い、
客人に自分の醜い顔を見られたら夫の面目がつぶれるのではと気兼ねして出しゃばらないし、
貞節も固く、次第に慣れ親しんでいきました。
しかし、この女は性格も悪くはなかったのですが、嫉妬深いという憎らしい一面だけは直ることがありませんでした。
※雰囲気を重んじた現代語訳となっております。
左馬の頭のセリフです。
具体的なエピソードのせいか、訳していて苦痛がないです。
この前の左馬の頭のセリフは本当に嫌だった。笑
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