源氏物語~帚木~(29)


紀伊の守は「こんなに突然…」と困惑しておりましたが、誰も聞き入れません。

寝殿の東側の部屋をきれいに掃除させて開放し、光る君の部屋をしつらえて急場をしのぎました。

遣り水の風情などは、身分の割にすばらしく造ってありました。

そして、田舎の家のような柴垣をめぐらせ、庭にはよく考えて木々が植えらております。

風は涼しく吹き込み、どこからか虫の声が聞こえ、蛍がたくさん飛び交って、素晴らしい景色でございました。

従者たちは、渡り廊下の下から湧き出ている泉が見えるような所に陣取って酒を飲んでいます。

紀伊の守も、つまみを求めてせわしく歩き回る間、光る君はのんびりと庭の景色を眺めなさって、

「昨晩、彼らが中流階級の話をしていたのはこのくらいだろうな」と思い出していらっしゃいます。

物忌みでこちらに来ているという伊予の守家の女房は、気位が高い女だと聞き知っていたので、

光る君は会ってみたくて耳を澄ましていらっしゃると、この寝殿の西側の部屋に女がいる雰囲気がありました。

衣がすれる音がサラサラとして、若い女の声も好感が持てるものでした。

さすがに光る君たちに遠慮して密やかな声で笑ったりする様子でしたが、わざとらしい感じもいたします。

はじめ、女たちは格子を上げていたのですが、紀伊の守が軽率だといって下ろしてしまったので、

灯火をともしているその光が、襖障子の上から漏れているところに、光る君はそっと忍び寄りなさって、

見えるだろうかとお思いになるのですが隙間がなく、仕方ないのでしばらく立ち聞きなさっていると、

どうやら女たちは光る君の位置から近い母屋に集まっているようです。

ひそひそ話していることをお聞きになっていると、どうやら光る君のことを話題にしているのでした。

※雰囲気を重んじた現代語訳となっております。


ちょっと時間が空いてしまいましたね。

さて、光源氏が方違えで紀伊の守の邸宅にやってきたところです。

「遣り水やりみず」は、庭の池に水を流し込む水路のことです。

前にも載せた図ですが、改めて。

かなり簡略化して描いたものです。

伊予の守家の女房にちょっと心が動いている光源氏。

さて、この後どうなるのでしょう。

 

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