源氏物語~帚木~(31)


「かわいそうに。この子の姉がお前の義理の母親か?」との光る君のお問いかけに、

「そうです」と申し上げると、

「似つかわしくない母親を持ったものだな。我が父上もその評判を耳にして、

『宮仕えに出仕させると申していたのはどうなったことか』と、いつだかおっしゃっていたぞ。

世の中というのは分からないものだな」と年よりじみたことをおっしゃいました。

「私としても思いがけないことでした。男と女というのはそういうことばかりです。

今も昔も、世の中には決まり切っていることなどないものです。

とりわけ、女の運命というのはの頼りなくて、しみじみさせられるものです」などと申し上げました。

「伊予の介は大事にしているのか?主君のように思って扱っているのだろうな」とお聞きになると、

「どうでしょうか。内々の主君と思っているように見えますが。

しかし、私を始め、家の者は『いい年をしてこんなに若い妻なんて』と納得しておりません」などと申します。

「そうは言っても、お前たちのような年相応で似つかわしいのに譲るつもりもないだろう。

あの男はとても風流で気取ったところがあるからな」などとお話しになりつつ、

「ところで、その女は今どこにいる?」とお尋ねになると、

「みな下の屋に下げてしまいましたが。まだ下がれずに残っているかもしれません」と申し上げました。

人々はみな大いに酔って、縁側に横たわって寝静まっているのでした。

※雰囲気を重んじた現代語訳となっております。


はい。光源氏が寝取りに行きたくてウズウズしているのがヒシヒシと感じられますね。笑

┐(○`ε´○)┌ ヤレヤレダゼ

ここで話題になっている女というのが、空蝉ちゃんなわけですが、ちゃんと登場するのは次回です。

さて、前回書いておくべきだったのかもしれませんが、伊予の介・紀伊の守の家の系図です。

まだ「空蝉」と呼ぶには早いのですが、分かりやすいですからね。

この空蝉は美人で名高く、桐壺帝のもとに出仕する話まであったそうです。

それがまあ、伊予の介の妻の座におさまりまして、

紀伊の守は「親父め、いい年こいて若い女に溺れるとはなんとスケベな」と思っているようです。

空蝉ちゃんの父親は「衛門の督えもんのかみ」です。(前回参照)

衛門の督は「従四位の下」ということで、なかなかの高位高官と言えるでしょうか。

その娘をもらい受けたのが伊予の介ですが、伊予は「上国じょうこく」に分類され、その二等官ですと従六位の上です。

ちなみに紀伊も上国で、その一等官(紀伊の守)は従五位の下となります。

上国というのは、日本の国々を4等級に分けたうち、上から2番目の等級です。

 

それから、「下の屋」と出てきましたが、三省堂「全訳読解古語辞典」によると、

寝殿造りのおもな建物のうしろに設けた、召使いなどが住む家。寝殿などと違って粗末な板葺いたぶき屋根なので「板屋」、長めに作られたので「長屋」ともいう。また、単に「下しも」で「下の屋」をいう場合もある。台所や湯殿ゆどの(=浴室)・樋殿ひどの(=便所)があることもある。「下に湯におりて」(源氏・帚木)は、下の屋に湯殿を使いに下がっての意になる。

とあります。「下に湯におりて」はタイムリーで、次回に出てくるセリフです。

 

では次回、空蝉ちゃんの登場をお楽しみに。

 

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