源氏物語~帚木~(39)


最近の光る君は大臣邸にばかりいらっしゃいます。

あれきりまったく連絡もしないので、女君の心の内はどれほど苦しいだろうかと気に掛かって気の毒で、

思い悩んだ結果、紀伊の守をお呼び出しになりました。

「例の亡き中納言の子を私にくれないか。かわいらしかったから、そばに置きたいと思って。

童殿上させたいと言っていたが、それも私が手配しよう」とおっしゃると、

「非常に畏れ多いことでございます。あの子の姉にお話しになるのがよいでしょう」

と紀伊の守がお返事申し上げるのにつけても、光る君は胸が苦しくおなりになりましたが、

「その姉というのは、お前の義理の弟を持っていたりはしないのか」

「いえ、そのようなものはおりません。この二年ほど、我が父の後妻の座についておりますが、

親の意向と違うと嘆いて、気が滅入っているようだと聞いております」

「かわいそうに。なかなか評判の良い女性だけどね。本当に評判通りかな?」とお尋ねになると、

「悪くはないでしょう。ただ、世の慣習に従ってよそよそしくしていますので、よく存じません」と申し上げました。

それから五、六日して、紀伊の守はその男の子を光る君のところにお連れしました。

この子は繊細で心惹かれるというわけではございませんが、上品な感じがして貴人らしく見えました。

光る君はこの子を呼び入れると、たいそう親しみやすい雰囲気でお話しなさいました。

すると、子ども心にとても素晴らしく嬉しいことだと思うのでした。

光る君は姉のことについても尋ね、詳しくお聞きになります。

答えられる範囲でお答えする様子は気が引けるほど落ち着いているので、

光る君も女君のことを言い出しにくく思っておいででした。

しかし、光る君はとても巧みに話して聞かせなさるのでした。

※雰囲気を重んじた現代語訳となっております。


罪の意識からか何か知りませんが、光源氏は正妻のいる左大臣邸に入り浸っているようです。

そうはいっても、別に正妻である葵の上と仲睦まじく過ごしているというわけでもないわけです。

空蝉のことが忘れられない光源氏は、空蝉の弟(小君)をまず自分の手元に置こうと謀ります。

そこで言うセリフが、

「かのありし中納言の子は得させてんや」です。

「ありし」というのは直訳すれば「生きていた」ということで、つまりは「亡くなった」ということです。

前にも載せた系図です。

空蝉と小君の父親は確かに世を去っていますが、前回紹介された時は「衛門の督」でした。

こういうところがメンドクサイですよね・・・

この人が、実は中納言と衛門の督を兼任していたということがここで当たり前のように語られているのです。

 

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