源氏物語~帚木~(42)


例によって、光る君が内裏で寝泊まりを続けなさるうちに、待ちに待った都合の良い方違えが巡ってきたので、

急遽退出して大臣邸へ参上なさるように見せかけて、紀伊の守邸を訪問なさいました。

紀伊の守は驚き、増設した遣り水が光る君のお気に召したのだと思って恐縮しつつ喜んでいます。

実は、昼ごろ光る君はこのような計画であると小君にはお話しになり、訪問する約束をなさっていたのです。

いつも小君をそばに置いて手なずけていらっしゃったので、その夜もまずは小君をお呼びになりました。

女君にもお手紙がありました。

光る君が計略をめぐらすのも、浅い気持ちからではないだろうと女君も思うのですが、

「だからといって心を許して、人並みでもないと自覚している姿を光る君にお見せするのは無益なことだし、

あの夢のような過ちを嘆きながら過ごしてきたのに、性懲りもなくまた同じ過ちを犯すわけには・・・」と思い乱れて、

やはりこうして光る君を待ち迎え申し上げるのはみっともないことだと思い、小君が出て行った隙に、

「御客人に近すぎて気恥ずかしいわ。

ちょっと体もだるいし、肩や腰を叩いてもらうのには離れた方が良いわね」といって、

渡り廊下にある、中将という女房の部屋に移ってしまいました。

光る君は女君と夜を過ごすつもりで、人を早くに寝かして、お手紙を小君に持たせなさいましたが、

小君はなかなか女君を探し当てることができません。

家中を探し回って渡り廊下に入り、ようやくたどり着きました。

「光る君はどんなに僕のことを役立たずだとお思いになるだろう」と今にも泣きそうに言うので、

「こんな風に生意気なことをするものじゃありません。

子どもがこのような使いをすることは厳しく慎むべきなのに」と脅して、

「私は具合が悪いから女房たちに体を揉ませていると申し伝えなさい。

お前がこんな所にいたら誰もが怪しむでしょう。早く行きなさい」と言い放つと、

心の中では、「本当に、このような身の上でなく、今は亡き父の思い出が残る実家にいて、

たまにでも光る君が来てくださるのをお待ちするというのであれば、どんなにか楽しいだろうに。

自分の気持ちを無理にごまかして、思いが通じていないように見せているけれど、

光る君はどんなにか私のことを思い上がった女だとお思いになることだろう」

と、自分の心ながら胸が痛く、思い乱れておりました。

「とにかく、どうしようもない運命なのだから無風流で気にくわない女として終わろう」

とすっかり心に決めたのでした。

※雰囲気を重んじた現代語訳となっております。


光源氏の求愛を拒むことを固く決心した空蝉ちゃんです。

しかし、心内文として語られる空蝉ちゃんの本心は実に人間らしくて良いですね。

さあ、あと1回で長かった「帚木」も終わりを迎えます!

帚木ラストは近々に。

 

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