源氏物語~空蝉~(6)


「弟君はどこにいらっしゃるのでしょう」

「ここの格子は閉めてしまいましょう」といって、格子を閉める音がするようでした。

光る君は、

「静かになったようだ。では、中に入って上手くやってくれ」と小君におっしゃいました。

しかし、女君の心は動きそうにもなく、身持ちが堅いので、小君としても相談などできるわけもなくて、

人が少ない時に光る君をお入れしてしまおう、と思っているにすぎないのでした。

「紀伊の守の妹もここにいるのか?それも覗き見させてくれよ」とおっしゃいましたが、

「それは無理でしょう。格子のそばに几帳が立ててあるんですから」とお答えしました。

「それはそうだろうけど、あの軽い感じなら何とかなるだろう」とおかしくお思いになるのですが、

「既に見たことは知らせずにおこう。さすがに女がかわいそうだ」とお思いになって、

夜が深くなってくることのじれったさをおっしゃるにとどめる光る君でございました。

小君は、今回は妻戸を叩いて中に入ります。

人々は皆寝静まっておりました。

「僕はこの襖のあたりに寝よう。涼しい風が吹けよ」といって、薄縁を広げて横になりました。

女たちは東廂に大勢寝ているようです。

妻戸を開けてくれた子も東廂に入って寝てしまったので、

小君はしばらく寝たふりをした後、

灯火の明るい方に屏風を広げて明るさを抑えてから光る君をそっと静かに中へお入れしました。

※雰囲気を重んじた現代語訳となっております。


「畳ひろげて臥す」をどう訳すか迷いましたが、「薄縁を広げて横になりました」としました。

映画などで見たことがあるかもしれませんが、平安時代の畳は部屋一面に敷きつめるものではありませんでした。


※画像:「tatami japan 置き畳ドットコム」様より拝借。

しかし、上の図にある畳を想像すると、「畳を広げて」というイメージとはまったく結びつきません。

 

そこで、講談社学術文庫『有職故実』(著:石村貞吉)を見てみると、

畳は、『和名抄』に、「和名たたみ」とある。薄縁うすべりの類で、使用しないときは、幾枚も重ねてたたんで置くので、「たたみ」と名づける。長方形をしたもので、その長い方の両側に付けた縁へりによって種々の名がある。

と紹介されています。

今回の文に出てくる畳はまさにこれですね。

ただ、「薄縁」というのは普段あまり使わない言葉なので思い切って茣蓙ござと訳してしまおうかとも思いましたが、

こちらのページによると、ござには縁がついていないイメージがありそうなのでやめました。

畳ひとつ取っても、歴史をたどっていくと面白いですよね。

 

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