源氏物語~夕顔~(20)


日も暮れて、少し眠り込んでいらっしゃったところ、

光る君の御枕元にたいそう美しい感じの女が座り、

「私がこんなにもあなた様のことを愛し申し上げているのに、私の所には来てくださらず、

このようなつまらない女を連れ出しなさってご寵愛なさるとは、とても心外で耐えがたいことです」

といって、隣で寝ている夕顔の女を起こそうとする、そんな夢をご覧になりました。

化け物に襲われるような心地がしてハッとお目覚めになってみると、

なぜか先ほどまで点いていた灯火が消えて、室内は真っ暗でした。

不気味にお思いになった光る君は、太刀を引き抜いて魔除けのためにそれを枕元に置くと、

右近を起こしなさいました。

この女もまた恐ろしく思っている様子で、震えながら光る君に近寄って参りました。

「渡り廊下に詰めている者を起こして、灯りをともして参上するように言ってきてくれ」

とおっしゃると、

「とても無理でございます。暗くて・・・」

と言うので、

「なんだ、恐いのか。子どもじみてるな」

とお笑いになり、手を叩いて人をお呼びになりましたが、

誰も聞きつけることができずに参上せず、たいそう気味悪くこだまが響きわたるばかりでございました。

夕顔の女はガタガタと震えがおさまらずに狼狽して、どうして良いのか分からずにいました。

汗もびっしょりになって、正気を失っているようでございます。

「非常に恐がりなご性格でいらっしゃるので、どんなに恐ろしく思っていらっしゃるでしょうか」

と右近が申し上げると、光る君も、

「たいそう弱々しくて、昼も部屋の奥を恐がって空ばかり眺めていたのに。かわいそうなことよ」

とお思いになって、

「私が人を起こしてこよう。手を叩くとこだまが響くのがとても煩わしい。

あなたは、夕顔の近くにいてさしあげなさい」

といって、右近を夕顔のそばに引き寄せなさり、西の妻戸をお開けになってみると、

渡り廊下の灯火も消えてしまっているのでした。

※雰囲気を重んじた現代語訳となっております。


いよいよホラーの始まりです。

数多く登場する『源氏物語』の女性たちの中でも一際異彩を放つ六条御息所。


※「映画.com」より。(映画『源氏物語~千年の謎~』で六条御息所を演じる田中麗奈)

ずっと「六条の愛人」と訳してきた彼女の特技は生き霊となって自由に飛びまわることです。

そんな妖怪変化の最初の被害者がかわゆいかわゆい夕顔ちゃん。

 

そうそう、「こだま」が出てきましたが、原文では「山彦」です。

山彦もこだまも同じようなものですが、どうしても「山彦」だと山でヤッホーのイメージなので。笑

古代の日本人は「山彦」は人の言うことを真似する妖怪(または神)のしわざと考えていたそうです。

 

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