源氏物語~夕顔~(21)


風が少し吹いていて、お仕えしている者たちはただでさえ少ないのに、みな眠りこんでしまっておりました。

この院の管理人の子で、光る君が親しく使っている若い男と、殿上童が一人、それといつもの随身だけがおりました。

光る君がお呼びになると、管理人の子が起きて返事をしたので、

「灯りをともして私の部屋に参上せよ。随身にも、絶えず弓の弦を打ち鳴らして魔除けをするよう命じておくように。

こんな人気のない所で油断して寝るとは何事か。それと、惟光が来ていたはずだがどうした」

とお尋ねになると、

「先ほどまで控えていたのですが、ご命令もないので夜明け前にまたお迎えに参上するとのことで、

帰ってしまわれました」

と申し上げたこの管理人の子は、内裏を守護する滝口の武士だったので、

見事に弓を鳴らして、「火、危うし」と言いながら父親である管理人の部屋の方に行くようです。

光る君は内裏に思いを馳せなさって、

「もう名対面は済んでいるころだろう。滝口の武士の宿直申しがちょうど今ごろか」

と推測なさっていたということは、そこまで夜も更けていなかったようです。

光る君が部屋にお戻りになって様子をうかがってみると、

夕顔の女君は先刻と変わらず横たわっていて、右近はその隣にうつ伏しておりました。

「これはいったいどうしたことか。何と常軌を逸した恐がりようだろう。

このように荒廃した所では狐なんかが人を脅かそうとして、恐がらせたりすることもあるかもしれない。

しかし私がいるのだから、そのようなものに脅されたりするはずがない」

といって、右近を引き起こしなさいます。

※雰囲気を重んじた現代語訳となっております。


管理人の子は光源氏と親しいそうで、「滝口の武士」なのだそうです。

滝口の武士は日本史をやると教科書に出てくるのではないかと思います。

古文でも今回のように出てきますが、宮中を警護する武士です。

清涼殿(天皇が日中を過ごす殿舎)の北東に「滝口」と呼ばれる所があり、

そこに彼らの詰め所があったので「滝口の武士」と呼ばれたのだそうです。

 

それから「名対面なだいめん」。

三省堂詳説古語辞典によると、

宮中で「宿直とのゐ」をした殿上人てんじようびと以上の者が、夜、定められた時刻に自分の氏名を名乗ること。近衛府の官人や滝口の武士などの「宿直奏とのゐまうし」に先立って行われた。

と書かれています。

要するに、夜勤をしているお偉方の出欠確認の点呼というイメージです。

本文にも、今の説明にも出てきた「宿直申し(宿直奏し)」も似たようなもので、同辞書によると、

宮中で「宿直」をしている近衛府このえふの官人や滝口の武士が、夜、定められた時刻に自分の氏名を名乗ること。殿上人てんじようびと以上の場合は「名対面なだいめん」といった。

と説明されております。

つまり、「名対面」→「宿直申し」と連続して行われる、夜勤の者の点呼なわけですね。

夕顔ちゃん、いったいどうなってしまうのでしょう。
ヾ(;´Д`●)ノぁゎゎ

 

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