「この上、何を思い悩んでいらっしゃるのですか。すべては運命なのです。
この秘密は誰にも漏らすまいと思ってこの惟光が懸命に立ち働いております」
などと申し上げました。
「そうだな。そのように思い込もうとしたのだが、
私の浮ついた心の気まぐれから人を死なせてしまった恨みを負うことになるのが非常に辛いのだ。
少将の命婦などにもこのことは聞かせてはならない。
尼君は言うまでもない。あの人は、このようなことには口うるさくお咎めになるから、きまり悪くて仕方ない」
と口止めをなさいます。
「法師たちにも、真相とは異なる話をしておきました」
と申し上げるのを聞くと、やはり信頼できる男だとすがるような思いでいらっしゃいました。
かすかにやりとりを耳にした女房たちは、
「奇妙なこと。何事でしょう」
「穢れにふれたことを口実にして参内もなさらず、その上こうして惟光と内緒話をしてはお嘆きになっているわ」
と、少し怪しく思っておりました。
「いっそう慎重に、上手く事を運んでくれ」
と、葬儀の作法についてもお話しになりましたが、
「いえ、おおげさにするべきではございません」
といって立つのがとても悲しく思われなさって、
「不都合だと思うかもしれないが、もう一度あの女の亡骸を見ないでは悔いが残るに違いない。
私も馬で行こう」
とおっしゃるのを、困ったことだとは思いましたが、
「そこまで思っていらっしゃるなら仕方ありませんね。早くお出でになって、夜が更ける前にお戻りください」
と申し上げると、夕顔の女との逢瀬のためにご用意なさった変装用の狩衣に着替えてお出かけになりました。
※雰囲気を重んじた現代語訳となっております。
おいおい、お前のせいで人が死んだのに「乳母に叱られるのが嫌だから」というショッボい理由で口止め?
これが貴公子のすることかね・・・
尼君というのは光源氏の乳母で何度も登場していますが、「少将の命婦」というのは初出です。
当たり前のような顔して出てくんじゃねえよ、って感じです。笑
「尼君はまして・・・」と出てくる文脈から、少将の命婦も惟光や尼君の血縁だろうと言われております。
岩波文庫版では、尼君の子で、惟光とは兄妹としているのでそれに従って系図を更新しておきます。
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