源氏物語~夕顔~(35)


「どうして光る君様にお隠し申し上げることがありましょうか。

ただ、ご自身がお隠しになってきたことを、亡くなった後に言いふらすわけにはいかないと思っているだけです。

ご両親は早くに他界されてしまわれました。

お父上は三位中将と申し上げる方で、あの方をとてもかわいがっていらしたのですが、

ご自身の朝廷での身の上が思い通りにならなかったうえに、お命まで意に反して潰えてしまいなさった後、

ちょっとした縁で、今の頭の中将様がまだ少将でいらっしゃった時に、あの方をお見初めになって、

三年ほどは愛情深くお通いになっていたのですが、

去年の秋頃に、頭の中将様の義父でいらっしゃる右大臣様の所からとても恐ろしいことを言ってきて、

あの方はひどく臆病なご性格でしたから、どうしようもなく恐がりなさって、

西の京に乳母が住んでおりましたので、そこにそっと身を隠すことになさったのです。

ところが、それも非常に見苦しい家だったので山里に移ろうと思っていらしっしゃいました。

しかし今年はそちらは方違えの方角でしたので、あの五条の粗末な家にいらっしゃったのですが、

そこを光る君様に見られてしまった、と嘆いていらっしゃったようです。

異常なほど人目を気になさって、人に物思いをしている所を見られるのを、恥ずかしいことと思いなさり、

平然としたふるまいを光る君様にはお目にかけていらっしゃるようでした」

と語り出したので、

「やはりそうだったか」と、前に聞いた頭の中将の話と思い合わせて、いよいよ悲しみが増してきました。

「幼い子を行方知れずにしてしまったと頭の中将は嘆いていたが、子もいたのか?」

「はい。一昨年の春にお生まれになりました。とてもかわいらしい女の子です」

「それで、その娘はどこにいるのだ。誰にも知らせずに私に預けなさい。

何も残さずに世を去ってしまって非常に悲しく思っていたが、

そうなればあの人の形見として手元に残るから非常に嬉しいことだろう。

頭の中将にも伝えなければなないが、言ってもどうにもならない恨み言を言われるだろうな。

どう考えても、私がその子を育てるのに罪はないだろう。その乳母にも上手に言ってここに連れてきなさい」

「そうなればどんなにか私も嬉しくございましょう。あの西の京でお育ちになるのは心苦しいことですから。

五条の家にはしっかりと面倒を見る人がいないからといって、そこにいるのです」

と申し上げました。

※雰囲気を重んじた現代語訳となっております。


右近が夕顔の身の上話を光源氏に語ります。

夕顔の素性が初めて明らかになりました。

落ちぶれてしまっては今したが、もとは公卿の娘だったとのことです。

夕顔の素性が明らかになったところで、系図を更新しておきます。

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