今年の出典は『夢の通ひ路物語』という作品の一節でした。
Wikipediaで調べてみると南北朝~室町時代ころの作品だそうです。
昨年は『源氏物語』ということで意表を突かれましたが、元に戻りました。
しかし、読んでいてストーリーが『源氏』チックだなあと思いましたが、
『源氏物語』の影響が強く、とWikipediaにも書いてありました。
さて、丁寧なリード文がついているのでしっかりと頭に入れてから読みましょうね。
問題はこちらのページに掲載されていますので必要な方はそちらからどうぞ。
①男君と女君は正式には結婚していないが愛し合っていた。
②その女君が帝の妻になり出産したが、実は男君との間にできた子であった。
③男君はその子が自分の子だと気づいている。
④女君はいまでも男君を愛している。(たぶん男君も女君を愛している)
設問にもサッと目を通しましょう。
すると、問4により、男君と女君が手紙を交わすシーンが出てくることくらいは情報として入手できます。
問1:傍線部訳の問題(5点×3)
ア)あぢきなき嘆き
重要語「あぢきなし」はどうしようもない感じを表す形容詞。「つまらない」などと訳すことも多い。「嘆き」は現代語と大きな違いはない。
①頼りない仲介役二人への落胆
②御子に対する限りない憐れみ
③帝に対する押さえがたい憎しみ
④女君へのどうにもならない恋の苦悩
⑤ふがいない自分自身へのいらだち
はっきり言って、本文を読まなくても見た瞬間④だろうと思うのだが、一応①も残してみた。傍線部の少し前から引用してみると「男の御心には、まして恨めしう、あぢきなき嘆きに添へて」と書かれている。「まして」という語は現代語と変わらず、前に書かれている内容を受け、「それよりもいっそう・・・だ」と強調する働きを持つ。前文の内容を抜粋すると「かたみに恋しう・・・現の頼め絶えぬる心憂さ・・・もの心細く」とあるので、二人の恋の件において現実的な期待が消え、つらく心細い気持ちが書かれているのが分かる。その気持ちを「まして」で強調した内容が傍線部の「あぢきなき嘆き」であり、やはり④しか選べない。
イ)あきらめてしがな
重要語「あきらむ」は「明らかにする」で、その連用形「あきらめ」に、自己の願望を表して「~したい(ものだ)」と訳す終助詞「てしがな」がついたもの。
これに対応するのは、
②の「真実をはっきりさせたい」しかない。
内容的にも直前に「鏡の影もをさをさ覚ゆれば」(=鏡に映った男君自身の顔も御子の顔にそっくりなので)とあり、それを受けて「あきらめてしがな」と男君はお思いになったわけで、因果関係も成り立っている。
ウ)御こころざしのになきさまになりまさる
まず品詞を正しく切れない人がいるかもしれない。「御こころざし|の|になき|さま|に|なり|まさる」が正解。「こころざし」は「愛情」の意味で、「になき」は重要語「二無し」の連体形。「二無し」は漢字のままで、「二つとない/またとない/比類無い」の意味。「まさる」は「増す」のイメージで、「(どんどん・ますます)~になっていく/~が増していく」の意味。というわけだが、実際は「になき」の意味のみで決定できてしまう。
①帝のご愛情がこの上なく深くなっていく
②帝のご寵愛がいっそう分不相応になっていく
③帝のお気持ちがいよいよ負担になっていく
④帝のお気遣いがますます細やかになっていく
⑤帝のお疑いが今まで以上に強くなっていく
というわけで①を選ぶ。
問2:文法(敬語)の問題。(5点)
a~cの波線部の敬語についての説明が正しい組み合わせを選ぶ問題。
a)「御方々思しわづらふもむべに侍り」の「侍り」だが、この語は謙譲語または丁寧語の可能性がある。まず、直前の「むべに」に着眼すると、この語は形容動詞「むべなり」の連用形で「もっともなことだ」という意味を持つ重要語。形容動詞の連用形の下についている「侍り」は補助動詞ということになる。補助動詞の「侍り」は100%丁寧語となる。従って、これに対して「謙譲語」という説明を付けている③と④は早くも消える。
b)「籠らせ給はぬを」の「給は」だが、この語は見た瞬間に尊敬語と判定する。残っている選択肢①②⑤はすべて尊敬語としているが、敬意の方向が違っている。
①b・・・御方々から男君への敬意を示す尊敬語
②b・・・御方々から男君への敬意を示す尊敬語
⑤b・・・清さだから男君への敬意を示す尊敬語
男君への敬意であることはすべて共通しているが、⑤だけが「清さだ」からとなっている。この箇所は『 』内にあるものだが、この『 』は清さだが右近に宛てた手紙の引用であることを読み取れているかがポイントとなる。清さだが書いている手紙なのだから、清さだが敬意を示しているのは当然であり、cを見るまでもなく⑤で決まり。
ただ、(c)の「悩ましう思ひ給へしに」の「給へ」は下二段活用をしているので、謙譲語「給ふ」の連用形であり、この語が使われているときの主語は必ず1人称であること、さらに、話し相手(この場合は手紙の送り先)に対する敬意となることは知っていなければならない。
問3:内容理解の問題。(7点)
傍線部X「いとど恥づかしう、げに悲しくて」の女君の心情の説明として正しいものを選べ。
という問題。
古文読解の基本の一つである「因果関係」への着目で答えが出る。
まずこの近辺の話の流れを整理してみよう。
まず、右近(女君の侍女)が、清さだ(男君の従者)から手紙が届いたことを女君に伝え(問2のbあたり)、さらに男君から女君宛てにも手紙が届いていることを伝える。女君は泣いて手紙を見ようとしない。そこで右近が、
「・・・(手紙を)御覧ぜざらむは、罪深きことにこそ思ほさめ」とて、うち泣きて、
「昔ながらの御ありさまならましかば、かくひき違ひ、いづこにも苦しき御心の添ふべきや」と・・・聞こゆれば、
↓〔因果関係〕
いとど恥づかしう、げに悲しくて、振り捨てやらで(手紙を)御覧ず。
①右近に、男君の病状が悪くなったのは自分のせいだと責められて恥ずかしくなり、また、男君が自分への気持ちをあきらめきれずに手紙をよこしたと告げられて、悲しく感じている。
②右近に、仲介役とはいえ世に秘めた二人の仲を詳しく知られて恥ずかしくなり、また、右近が声をひそめて話すことから二人の仲が公にできないと思い知らされて、悲しく感じている。
③右近に、男君からの手紙を見ないのは罪作りなことだと諭されて恥ずかしくなり、また、昔の間柄のままであったら二人とも苦しまなかっただろうと言われて、悲しく感じている。
④右近に、死を目前にした男君が送ってきた罪深い内容の手紙を渡されて恥ずかしくなり、また、男君の姿が元気だった頃とは一変したので心苦しいと嘆かれて、悲しく感じている。
⑤右近に、子どもの面倒を見ないのは罪深いことだと説かれて恥ずかしくなり、また、子どもさえなければ帝も男君もここまで苦しまなかっただろうと咎められて、悲しく感じている。
①→そのような責められ方はしていない。
②→どこにも書かれていないことばかり。
④→男が死にそうなほどに衰えたという記述はない。また、罪深いのは手紙を見ようとしない女君の方。
⑤→どこにも書かれていないことばかり。
というわけで圧倒的に答えは③。
「昔ながらの御ありさまならましかば・・・いづこにも苦しき御心の添ふべきや」は反実仮想(もし~だったら・・・だろう)の構文がやや変形したもの。文末にある「や」は反語を作っている。ここでは、「もし昔のままの御有り様(二人の関係)だったなら、いづこにも(どこにも/どちらにも)苦しい心が加わっただろうか、いやそうではないだろう」ということになる。③の選択肢の通りである。
問4:内容理解の問題。(9点)
男君の手紙(A)と女君の手紙(B)の内容説明として正しいものを選べ。
という問題だが、まず、センター試験において1問に対して9点も配分されているということが過去にあったか記憶にない。覚えている限りでは最大でも8点だったように思うので、これはかなり思い切った配点と言える。
手紙Aは設問に示されている通り男君から女君への手紙であるが、この手紙はまず次の和歌から始まっている。
さりともと頼めし甲斐もなきあとに世のつねならぬながめだにせよ
「頼む」は重要語で、マ行四段活用の時は「期待する」の意味、マ行下二段活用の時は「期待を持たせる」という意味になる。ここでは下二段活用。「甲斐もなき」は現代語とかわらないので、「期待の甲斐もない」という意味で取れていれば良い。ただし、すべての選択肢が「死んだら/死ぬだろうが」という言葉を含んでいるので、「甲斐もなきあと」の「なき」に死ぬ意味が掛けられているのだと気づき、「期待させたかいもなく死んだ後に」と捉える。「世のつねならぬ」は「世の常」すなわち「普通であること、尋常であること」を否定して「普通でない、並大抵ではない」ということ。「ながめ」はスーパー重要語で「物思いに沈むこと」。「だに」は重要な副助詞で「(せめて)~だけ(でも)」の意味、「せよ」はサ変動詞「す」の命令形。あわせると、「せめて並大抵ではない物思いに沈んでくれ」ということになる。「さりとも」には言外に隠された意味があるが、自力で理解する必要はない。
①男君は、私が生きる甲斐もなく死んだら悲しんで欲しいと思うが、・・・
②男君は、あなたに会えずに死んだらせめて心を痛めることだけでもしてほしいが、・・・
③男君は、私は 逢瀬の期待もむなしく死ぬだろうが、・・・
④男君は、あなたを恨みながら死ぬだろうが、その時には・・・悩んで欲しい・・・
⑤男君は、私がこのまま死んだら、私のことを思って空を眺めて欲しい・・・
圧倒的に良いのは③だが、一応②も残し、②にもっとダメな所がないかを探していくので、和歌の後にある手紙の続きを読み込んでいく。
・・・ほどなく魂の憂き身を捨てて、君があたり迷ひ出でなば、結びとめ給へかし。
「ほどなく」→間もなく
「魂の憂き身を捨てて」→魂がこの現世の身体を捨てて
「君があたり迷ひ出でなば」→あなたのあたりに迷い出たならば
「結びとめ給へかし」→(私の魂をあなたの近くに)結びとめなさってくださいよ
和歌の内容を文で補強しているわけだが、ここの部分の解釈を間違わなければ、②を消せる。
②男君は・・・死にきれないので私を受け入れてはくれないものか、と言っている。
ちなみに、「死にきれないので」は、男の手紙のラストにある「惜しけくあらぬ命も、まだ絶えはてねば」を誤読するとそうなる恐れがある。
「惜しけくあらぬ命も」→惜しくもない私の命も
「まだ絶えはてねば」→まだすっかり絶えてはいないけれども
という意味である。「已然形+ば」は、通常「~ので/~ところ」などの順接を表すが、今回のように逆接になることがたまにある。
この部分の解釈が違うのは②の他に、①と⑤である。
①・・・迷い出そうな魂もあなたのことを考えるとこの身にとどまって死にきれない、と言っている。
⑤・・・そうすれば魂はあなたのもとに行くので、そばに置いてほしい、と言っている。
女君の返事(B)の解説は割愛するが、もちろんそこまで確認しても良い。ただし、Bはほとんど和歌。とはいえ、男君・女君の二首の和歌をまったく無視して考えようとした場合、①②⑤までは消せるが、③と④が残って絞りきれないことになってしまう。和歌を見た瞬間にアレルギーで失神してしまうようだと、この問題は絞りきれないことになる。それもあっての9点という配点なのだろう。
問5:内容理解の問題。(7点)
傍線部Y「方々思ひやるにも、悲しう見奉りぬ」とあるが、この時の右近の心情の説明として正しいものを選べ。
これは本文の最後のフレーズである。少し前から内容を確認してみると、
男君からの手紙に対して女君は返事を書く。
「思はずも隔てしほどを嘆きてはもろともにこそ消えもはてなめ
遅るべうは」
女君はこれだけ書くとひどく心を乱してお泣きになる。それを見た右近が、
「かやうにこと少なく、節なきものから、いとどあはれにもいとほしうも御覧ぜむ」と、方々思ひやるにも、悲しう見奉りぬ。
という流れで本文は閉じられている。
この傍線部に対する右近の気持ちは、もちろん直前の「 」内に記されているので、この「 」を正しく読めれば正解を選べる。「こと少なく」だが、ここでの「こと」は「言」の字をあてて、「言葉が少なく」の意味となるのだが、もちろん女君の手紙の短さを言っているのは間違いない。この時点で「病のせいで言葉少ない男君の手紙を見て」としている②が早くも消えてしまう。「節なきものから」の「節」は「心のとまる点」という程度の意味だが、まあ分からなくても大丈夫で、それよりも「ものから」が逆接を表す接続助詞であることが分かっているのが重要。「節」が分からなくても、「このように言葉が少なく、・・・もないけれども」と大きく捉えられていればOK。続いて、「いとど」はスーパー重要語で「ますます/いっそう」の意味。「あはれに」もスーパー重要語で、様々な意味を持つが、とにかく心を打たれ、しみじみ感動する様を表す。「いとほし」もスーパー重要語で「気の毒だ」の意味。「御覧ぜむ」は「見る」の尊敬語「御覧ず」の未然形に、推量の助動詞「む」がついたものだから、「ご覧になるだろう」の意味となる。つなげると、「ますます、しみじみ心を打たれることだとも、また気の毒だともご覧になるだろう」となる。これをもとに選択肢を見ていく。※②以外
①女君は立場上、簡単な手紙しか書けないが、気持ちは男君にきっと伝わるだろうと、離ればなれになった二人を思っては、悲しく感じている。
③言葉足らずの女君の手紙を見て、男君は女君をいとしく思いつつもいよいよ落胆するだろうと、二人の別れを予感しては、悲しく感じている。
④短く書くことしかできない女君の手紙を見て、男君はさらに女君への思いを募らせるだろうと、二人の気持ちを考えては、悲しく感じている。
⑤控えめな人柄がうかがえる女君の手紙を見れば、男君は女君への愛をますます深めるだろうと、二人の将来を危ぶんでは、悲しく感じている。
①・・・「気持ちが伝わるだろう」はどこをどう勘違いしてもそういう解釈にはならないはず。
③・・・「いよいよ落胆するだろう」は「あはれ」か「いとほし」の意味を勘違いすればそうなるかもしれない。しかし「二人の別れを予感して」が圧倒的に違う。予感も何も、リード文にあったとおり、最初から別れている二人である。
⑤・・・「愛をますます深めるだろう」では、「いとほし」の意味を含んでいるとは言えない。更に、「二人の将来を危ぶんで」も二人が関係を持っているかのようでおかしい。
というわけで、正解は④になる。
問6:内容一致問題。(7点)
①男君は、女君のことを恋しく思い続けているが、未練がましく言い寄っても女君が不快に思うのではと恐れて、誰にも本心を打ち明けられず、悩みを深めていた。
②女君は、男君への思いを隠したまま、帝と過ごす時間が長くなっていくことに堪えられず、ついには人目を忍んで男君への手紙を右近に取り次がせようとした。
③清さだは、右近から手紙が来ないことを不審に思い、帝が真相に気づいたのではないかと心配になり、事情を知らせるようにと、急いで右近に手紙を送った。
④男君は、女君への思いに加えて、東宮のもとに無理に出仕したため病気が重くなり、男君の様子を清さだから聞いた女君は、男君は死ぬに違いないと思った。
⑤女君は、男君の手紙を見せられて恐ろしく感じ、手紙を取り次いだ右近を前に当惑して泣いたが、無視もできずに手紙を読んだところ、絶望的な気持ちになった。
①は、男君が誰にも本心を打ち明けられずに悩むシーンについてだが、これは1段落の最後。ただし、そこは東宮の容貌が自分に生き写しであることに関しての悩みである。
②の選択肢だと、女君の方から男君にアプローチしていることになる。逆。
③④は全面的に違い、どう言及したら良いのか分からないほどメチャクチャな選択肢。
従って、無難なことが書いてある⑤が正解となる。
去年に比べれば平易になったと言えるかと思います。
とはいえ、極端に平易になったというよりは、平年並みに戻ったというところでしょう。
それにしても問4の9点という配点は凄いですね。
1問間違えただけでそんなに削られたのでは大変です。(^^;;
まあそんなわけで、2015年のセンター試験の解説はこれで終了します。