源氏物語~末摘花~(25)


源氏物語-末摘花-

御車を出す門はまだ開けていなかったので、誰が鍵を管理しているのか尋ねると、

ひどくよぼよぼの老人が出てきました。

その娘でしょうか、あるいは孫娘でしょうか、背は高くも低くもない女が、

ひどく黒ずんだ衣が雪のためにいっそう目立ち、寒いと思っている様子で、

変な容れ物に火をほんの少し入れて、袖にくるむようにしながら持ってきました。

老人が門を開けられずにもたもたしていると、女が近寄って手助けするのは実に見苦しくございました。

結局、光る君に随行していたお供の人が寄っていって門を開けました。

ふりにける頭の雪を見る人も劣らずぬらす朝の袖かな
〔=雪の降る中、年老いて真っ白になった老人の姿を見ると、思わず涙がこぼれ、私も老人に劣らないほど袖が濡れてしまう朝であることよ〕

『わかき者はかたちかくれず』」

と口ずさみなさると、とても寒そうに鼻を赤くしていた姫君のお姿がふと思い出されて、つい笑みがこぼれなさいます。

「頭の中将がこの姫君の鼻を見たら何に喩えるだろう。

いつも様子をうかがいにここに来ているから、今に見つかってしまうかもしれないな」と、どうしようもなくお思いになります。

あの姫君が世間並みの容姿だったなら捨ててしまってもよかったのですが、

あの顔をはっきりと御覧になってしまったからには、かえって気の毒で仕方ないというお気持ちになって、

常に気にかけて誠実にお手紙をお寄越しになるのでした。

※雰囲気を重んじた現代語訳となっております。


色々ありまして、感覚が空いてしまいました。

末摘花邸を出るのにもたつく光源氏です。

和歌の後によく分からん『わかき者はかたちかくれず』という句が出てきます。

これは注によると白居易の「重賦」という詩を引用したものだそうです。

歳暮天地閉 歳暮れて天地閉ぢ
陰風生破村 陰風破村に生ず
夜深煙火尽 夜深くして煙火尽く
霰雪白紛々 霰雪白くして紛々たり
幼者形不蔽 幼き者は形蔽れず
老者体無温 老いたる者は体温かなる無し
悲喘与寒気 悲喘と寒気と
併入鼻中辛 併せて鼻中に入りて辛し

全体はもっと長いようです。

重税に苦しむ民を描いた詩で、山上憶良の「貧窮問答歌」を思わせます。

「わかき者はかたちかくれず」とは、幼い者は着るものもなく、というような意味です。

貧しくて(ろくに)着る物もない、ということだと思います。

老人と若い女が門を開けるのに手間取っている情けない様子を見ながら詠んだ和歌と、それに付け足した詩句です。

ので、おそらく光源氏のいう「わかき者」は若い女でしょう。

女は裸ではないですが、みすぼらしい格好をしています。

同時に、末摘花も想起されました。

鼻が特徴的な末摘花でしたが、この白居易の詩にも「鼻」という語が登場しています。

しかし、醜い容姿が気の毒で帰って見捨てられない、というのは酷い話ではありますけど面白いですね。

<<戻る   進む>>

 

Posted in 古文 | Leave a comment

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です