光る君は熱病を患いなさり、様々な加持祈祷をさせなさったのですが、効果がなく、
たびたび熱の発作に悩まされるものですから、ある人が、
「北山にある、何とかいう寺に優れた僧侶がおります。
去年の夏もこの病が流行って、やはり加持祈祷が効かずに困っていたのを、
この僧侶があっという間に治したことが何度もありました。
こじらしてしまったら厄介ですから、早くお試しなさるのがよいかと存じます」
などと申し上げるので、その僧侶を呼びに使いをやったのですが、
「年のせいで腰が折れ曲がっていて、家から出られません」
と申してきたので、
「仕方がない、目立たないようこっそりと出かけるか」
とおっしゃって、お供には親しい者を四、五人ほど連れて夜が明けないうちにお出かけになりました。
僧侶の住まいは北山の少し奥深くに入った所でした。
三月の末だったので、京の桜の花盛りはすっかり過ぎてしまっておりましたが、
山の桜はまだ咲き誇っていて、光る君が奥へと進みなさるにつれて、霞の雰囲気も趣深く見えました。
このような出歩きはご経験がなく、窮屈な身の上だったので、新鮮で面白く思っていらっしゃるのでした。
※雰囲気を重んじた現代語訳となっております。
『源氏物語』を象徴する女性の一人、若紫(紫の上)が登場する巻に入りました。
光源氏に最も大事にされた妻が紫の上です。
まだ出てきていませんが。
この巻の冒頭、光源氏は「熱病」を患ったところから始まります。
原文は、
わらは病にわづらひ給ひて
と描写されています。
三省堂詳説古語辞典で「わらはやみ」を調べてみると、
((「童病わらはやみ」で、子供に多い病気の意))高熱を発する病名。いまのマラリア性の熱病という。おこり。
と説明されています。
ベネッセ古語辞典で同じ「わらはやみ」を調べてみると、やはり、
((「童病み」の意とも))マラリアに似て、隔日または毎日、時を定めて発熱する病気。=おこり。
と説明されています。
一方、岩波文庫の『源氏物語(一)』の注釈には、
この「わらは病」は、「草ぶるい」と称するもので、俗にいう「おこり」即ちマラリヤではない。
と書かれています。
で、「草ぶるい」って何ですか??
( ゚д゚)ァラヤダ
大阪府立公衆衛生研究所メールマガジンによると、「フィラリア症」のことだそうで。
で、「フィラリア症」って何ですか??
( ゚д゚)ァラヤダ
「バンクロフト糸状虫しじょうちゅう」という寄生虫が蚊を媒介として人に寄生して引き起こす感染症らしいです。
今では感染の例はないようですが、古くからあって昭和30年ごろまでは症例があったそうな。
マラリアにしてもフィラリア症にしても恐い病気ですね。
というわけで、何だかよく分からないので「熱病」と訳しておきました。
何にしても、これを加持祈祷で治そうというんですからゾッとしますね。
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