源氏物語~若紫~(12)


源氏物語-若紫

光る君は非常に体調も悪いのですが、雨も少し降りはじめ、冷たい山風が吹いてきました。

滝壺も水かさが増して、音が高く鳴り響いています。

少し眠そうな読経の声がたまに途切れながら聞こえてくるのは、

在俗の人にとっても、場所が場所だけにしんみりと心に染みてくるのでした。

光る君は、ましてあれこれと考えを巡らせることが多くて、お休みになることができずにいらっしゃいます。

初夜と僧都はいいましたが、夜はひどく更けていました。

この家に住む女たちも寝ていない雰囲気がはっきりと感じられ、とても小さい音ではありましたが、

数珠が脇息に当たって鳴る音などがかすかに聞こえ、心惹かれる衣擦れの音に、

優美だなあ、と光る君はお聞きになると、それほど離れた所にいるわけでもなさそうなので、

部屋の外に巡らしてあった屏風を少しずらして、扇を鳴らしなさったところ、

奥にいた女は心当たりがないようでしたが、聞こえないふりをするわけにもいかないと思って、

膝で進み出てくる人がいるようでした。

少し後ろに下がって、

「おかしいわ。空耳かしら」

とまごついているのをお聞きになって、

「仏のお導きは、暗闇の中でも決して間違えるはずがないないのですが」

とおっしゃるお声が非常に若々しく高貴だったので、返事をする自分の声が気恥ずかしいのですが、

「そのお声はどのような方面へのお導きでしょうか。私には見当もつきませんが」

と申し上げました。

「なるほど、唐突すぎていぶかしくお思いになるのも当然かもしれませんが、

初草の若葉の上を見つるより旅寝の袖も露ぞかはかぬ
〔初草の若葉のような幼く美しい少女を見た時から、旅寝の袖に涙の露がこぼれて乾くことがありません〕

とお伝えくださいませんか」

とおっしゃると、

「そのようなご伝言をお聞きしても分かる者など一人もいらっしゃらないということは御存じなのではありませんか?

いったい誰に伝えよとおっしゃるのでしょうか」

と申し上げました。

※雰囲気を重んじた現代語訳となっております。


光源氏がさっそく行動に移りました。

特に補足するようなことはないので今回はこれでおしまいです。

 

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