源氏物語~若紫~(6)


建物の中程の柱に寄りかかって座り、肘掛けの上に経を置いて、

たいそう苦しげに読み上げている尼君はただ者ではないように見えました。

四十過ぎくらいで、顔はとても白く上品で、痩せてはいましたが、顔つきはふくよかで、

目もとの雰囲気や、美しく切りそろえた後ろ髪の裾なども、

かえって、長く伸ばしているのよりも新鮮でいいなあ、としみじみご覧になっていました。

美しい女房が二人ほどいて、他に子どもたちが出たり入ったりして遊んでいます。

その中に、十歳ほどと見受けられて、白い衣に着古した山吹色の上着を重ねて走ってくる女の子がいました。

他の大勢の子とは似ても似つかず、

非常に美しく成長していく姿が目に浮かんで、それはそれはかわいい顔立ちでした。

髪は、扇を広げたように広がってゆらゆらとし、

泣いているようで、涙を拭うのにこすったせいで顔を赤くして尼君の隣に立っています。

「どうしたのです。子どもたちとけんかでもなさったのですか?」

といって尼君が見上げた顔と、その子は少し似ていたので、光る君は親子だと思ってご覧になります。

「雀の子を、いぬきが逃がしちゃったの。伏せ籠の中に入れて飼っていたのに・・・」

といって、非常に残念がっていました。座っていた女房は、

「またあのうっかり者ね。こういうへまをして叱られるのは本当に気に入らないわ。

雀はどこへ行ってしまったのでしょう。だんだんかわいくなってきたのに。

カラスが見つけていじめたりしたら大変」

といって雀を探しに行きました。髪の毛は多くて非常に長く、綺麗な女のようです。

周りから「少納言の乳母」と呼ばれているようなので、あの女の子の乳母なのでしょう。

※雰囲気を重んじた現代語訳となっております。


非常に有名なシーンです。

後の紫の上、紫の君(若紫)の初登場シーンですね。

この時点では子役かもしれませんが、紫の上は前田サマこと、前田敦子しかいません。

と思ってました。笑

「いぬき」というのは子どもの名前です。

この「雀の子を逃がしちゃったの」をとびきりかわいく演じて欲しいですね。

あと、少納言の乳母のセリフ、「烏などもこそ見つくれ」がけっこう有名なんです。

「もこそ~已然形」となると、嫌な未来を想像して、「そうなったら嫌だなあ」という気持ちを表します。

その例文としてよく引かれます。

 

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