枕草子~夜をこめて~(2)


(前回の内容)

頭の弁・藤原行成がやってきて夜まで話をしていましたが、退出した後で手紙が来ました。私が和歌を詠み送ると返歌が来ましたがあまりにも見事だったので返せませんでした。能筆家である行成の手紙のうち、一通は定子様の弟の僧都の君に、残りの二通は定子様に献上しました。

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前回、『小倉百人一首』にも採られている、

夜をこめて鶏の虚音ははかるともよに逢坂の関は許さじ

という清少納言の歌が登場しました。

この歌を取り上げたかっただけなのですが、続きもあるのでやっておきます。笑


【現代語訳】

それで、

「あなたの手紙は殿上人がみんな見てしまったよ」

とおっしゃるから、

「本当に私のことを思ってくださっていたのだと分かりましたわ。

素晴らしいことが人に伝わらないのはガッカリですもんね。

あ、見苦しいものが広まるといけないから、私の方では行成様のお手紙は隠して誰にも見せておりません。

お互い、思いやりの深さは同じくらいのようですね」

と言うと、

「そういう風に物事を分かって言うのがやっぱり他の女性とは違うんだな。

よくある女みたいに『嫌ですわ、無神経ですこと』なんて言うかと思ったよ」

などと言ってお笑いになったの。

「それはまたいったいどうして。お礼は申し上げても、嫌がるなんて」

なんて言うと、

「私の手紙をお隠しになったというのも、また心から嬉しいね。

あんなのを見られたらどんなに惨めだっただろうから。今後ともそのようにお願いしますよ」

などとおっしゃった後、経房の中将がお見えになって、

「頭の弁がそなたをたいそうお褒めになっていたのを知っているか?

こないだもらった手紙にあったことをお書きになっていた。

私が思いを寄せているあなたが、人に褒められるのはとても嬉しいことだよ」

なんて真面目な顔をしておっしゃるのもおかしかったわ。

「嬉しいことが二つですわ。行成様が褒めてくださったっていうのと、あなたの想い人の中に私が入っていたこと」

って言ったら、

「あ、それさあ、前から知ってるくせに今知ったみたいに喜んで・・・」

などとおっしゃったの。


経房の中将・・・源経房つねふさ

 

行成が、「お前の手紙みんなに見せちゃったぁ」(ノ≧ڡ≦)テヘペロ

って言うと、清少納言のユーモア魂に火が付いて応酬が始まります。

「ありがとうございます!そうしてくれたらいいな、って思ってたんですぅ。
だって私の返事ってマジ素敵だったじゃないですかあ。
で、素敵なものって広まらなかったらガッカリですもんね。だからホント嬉しい!
あ、あなたの手紙は最低だったから誰にも見られないように厳重に隠してあるから安心してくださいね!」

っていう。

前回の最後にもあった通り、本当は行成の手紙は定子とその弟君に献上してしまっています。

ということはこれはすべて逆のことを言っている冗談なんです。

 

あと、関係ないですけど経房くんもかわいいですよね。笑


【原文】
さて、
「その文は殿上人みな見てしは」
とのたまへば、
「まことに思しけりと、これにこそ知られぬれ。
めでたき事など、人の言ひ伝へぬはかひなきわざぞかし。
また、見苦しきこと散るがわびしければ、御文はいみじう隠して人につゆ見せはべらず。
御こころざしのほどをくらぶるに、ひとしくこそは」
と言へば、
「かく物を思ひ知りて言ふが、なほ人には似ずおぼゆる。
例の女のやうにや言はむとこそ思ひつれ」
など言ひて笑ひ給ふ。
「こはなどて。よろこびをこそ聞こえめ」
などのたまひて後に、経房の中将おはして、
「頭の弁はいみじうほめ給ふとは知りたりや。
一日の文に、ありし事など語り給ふ。
思ふ人の、人にほめらるるは、いみじう嬉しき」
など、まめまめしうのたまふもをかし。
「うれしき事二つにて。かのほめ給ふなるに、また、思ふ人の中に侍りけるをなむ」
と言へば、
「それ、めづらしう、今の事のやうにもよろこび給ふかな」
などのたまふ。

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