源氏物語~葵~(19)


左大臣邸に御到着なさっても、まったくお眠りになることができず、これまでの長い夫婦生活を思い出しなさって、

「どうして、いつかは自然と私を愛してくれるだろう、などと暢気に構えて、薄情だと思われても仕方ないような浮気な振る舞いをしてしまったのだろう。長い間、私のことをうち解けられない嫌な人だと思い続けたまま逝ってしまわれたのか」などと、悔やまれることばかりでしたが、今さら言ってもどうにもなりません。

鈍色めいたお召し物を着ていらっしゃるのですが、それも夢のような心地がして、

「もし私が先に死んでいたら、あの方はもっと濃い喪服をお召しになっただろう」とお思いになり、

かぎりあれば薄墨衣あさけれど涙ぞ袖を淵となしける
〔決まりがあるために私の喪服は薄くて浅い墨色ですが、とめどなく流れる涙が袖を濡らし、深い淵をつくっていることです〕

と言って念仏を唱えなさる様子には、ますますしっとりと優美さが増しているように思えました。

続けて、お経を静かに読みなさって、「法界三昧普賢大士」とお唱えになるのは、読み慣れている法師以上に尊く感じられます。

生まれたばかりの若君をご覧になるにつけても、亡きご内室の忘れ形見だと思ってますます涙がちでしたが、「この子が忘れ形見としていてくれるだけでも…」と心を慰めなさるのでした。

母宮はひどく気落ちして、起き上がることもなく臥せったままでいらっしゃいます。

命までも危うく思われるほどなので、左大臣家ではまたしても加持祈祷を施しなさるのでした。

※雰囲気を重んじた現代語訳です。


野辺送りが終わって帰宅しましたが、引き続き愁嘆場です。

葵の上の母までが心痛の余りに倒れてしまったそうで。

ところで、光る君が着ている装束は「鈍色にびいろ」だったと記されていました。

鈍色

濃いめのグレーですね。

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