源氏物語~紅葉賀~(19)


源氏物語-紅葉賀

「まったく、正気ですか。付き合いきれないな。さて、直衣を着るよ」

とおっしゃったのですが、頭の中将は光る君の手を掴んだまま離しません。

「では君も道連れだ」

とおっしゃると、光る君は頭の中将の帯をほどいて直衣を脱がそうとしなさいました。

頭の中将は脱ぐまいとあらがい、二人で引っ張り合っているうちに、装束の縫い目がほろほろとほどけてしました。

そこで頭の中将は、

つつむめる名やもり出でんひきかはしかくほころぶる中の衣に
〔お隠しになっていたことは噂として漏れ出ることでしょう。引っ張り合った末にほころんでしまった衣のように、秘め事の結び目もほどけてしまいましたよ〕

その綻びた服を上に着たら、このことは露顕してしまうでしょう」

と言い、光る君も、

かくれなき物と知る知る夏衣きたるをうすき心とぞ見る
〔あなたの方こそ、この女との関係が露顕すると分かっていながらやって来るとは、薄い夏衣のように浅薄な心だと思いますがね〕

と応酬し、互いに恨みっこなしのだらしない姿にされて、一緒に内裏をご退出なさいました。

光る君は、頭の中将に見つかってしまったのをとても悔しく思いながら自邸で横になっていらっしゃいます。

典侍は昨晩のことに驚いて呆然としつつ、床に落ちていた御指貫や帯などを、翌朝光る君に送り届けました。

恨みてもいふかひぞなきたちかさね引きて返りし波のなごりに
〔お恨みしても仕方のないことです。お二方がやってきて、そして帰ってしまった後では〕

ただ悲しいばかりです」

という文も添えてありました。

「みっともないことだ」とご覧になり、腹立たしかったのですが、女がつらい気持ちでいるのもさすがにかわいそうなので、

荒立ちし浪に心はさわがねど寄せけん磯をいかがうらみぬ
〔荒れた浪に動揺することはありませんが、その浪を引き寄せた磯は非常に恨めしいことです。頭の中将の粗暴な振る舞いは何とも思いませんが、彼を引き寄せたあなたのことは恨みます〕

とだけ返歌をお送りになりました。

※雰囲気を重んじた現代語訳となっております。


前回、頭の中将のいたずらだと光源氏が気づいたところで終わりました。

今回は、変なテンションでじゃれ合っている2人から始まります。

コントではあるかもしれませんが、男同士でイヤだイヤだと言いながら脱がせっこしてるのはちょっと・・・。
(´゚ω゚`)ヤメイ

当時は一夫多妻制で、男性が複数の女性を妻にしたり愛人をもったりするのは普通のことでした。

しかし、女性が同時に複数の男性と関係を持つことは許されていませんでした。

法的に「養老律令」により重婚は禁止されているそうですが、恋愛関係については慣習法的な規定だと思います。

しかし、成文法にせよ不文律にせよ、決まりがあるということは、「適度に」守らない人がいるのが前提となるわけです。

極端な話、「生きている間は呼吸をしなければならない」という法律も、「屋外で呼吸をしてはいけない」という法律も意味がないのは、それが馬鹿馬鹿しいからというのはさておき、前者は「言われなくても誰もがそうする」ことであり、後者は「誰も守れない」ことだ、ということです。

つまり、女性が複数の男性と同時に関係を持ってはいけない、という決まりは、そうする人が一定数いた、ということを逆説的に証明しているわけで、源典侍のお話も実態に基づいていると言えましょう。

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