藤壺の宮様はそのころご実家に里下がりされていらしたので、光る君は例によってこっそりとお会いできないものかと隙をうかがっていらっしゃってばかりでしたから、左大臣家では訪れのない光る君の噂でもちきりでした。
紫の君をお引き取りになったことを、
「二条院に女をお迎えになったそうでございます」
と女房がご報告申し上げたので、ご内室はますます気に入らないことだと思っていらっしゃいます。
「内々のことなどお分かりになるはずもないのだから、妻がそのようにお思いになるのはもっともなことだが、普通の女のように、かわいらしい心根で恨み言をおっしゃったりすれば、私も包み隠さず話しつつお慰めするようなこともあるのに、私の振る舞いを思いがけない風にばかり解釈なさるのが気に入らなくて、普通ならありえないような女性と交際することもでてくるのだよ。あの人の御容姿には物足りなく思うような欠点もない。他の女性よりも早くあの人と結婚したのだから、しみじみ愛しくかけがえのない存在だと思い申し上げていることをご存じないのだろうが、まあ、それでもいつかは思い直してくださるだろう。落ち着いていて、軽率なところがないお心だから、そのうちに」
光る君が信頼しているという点では、やはりこのご内室が別格なのでした。
紫の君は、光る君に親しんでいきなさるにつれて、心も姿もたいそうかわいらしくなり、何のわだかまりもなく無邪気に懐いていらっしゃいました。
「しばらくは家の者にもこの人の素性は黙っておこう」とお思いになって、まだ離れた対の屋に住まわせていて、他には例を見ないほど入り浸っては、あらゆることをお教えなさるのでした。
書の手本を書いて手習いをさせるなど、まるで、よそで暮らしていた自分の娘を迎え取ったかのような気持ちでいらっしゃいます。
政所や家司など、家の事務を司る者も、ご自身のとは別につけて心配がないように仕えさせなさるので、ここまでの厚遇をするとはいったい何者だろうかと、惟光以外の人間はわけが分からずにいました。
紫の君の父宮でさえも娘の居所をご存じなかったほどですから。
紫の姫君は、やはり時々は亡くなった尼君のことを思い出し申し上げて恋しがっていらっしゃいました。
光る君がいらっしゃる時は気を紛らわせなさるのですが、夜は二条院で過ごすこともたまにはあるものの、関係を持った女性の所にあちこちお出かけになり、日が暮れてお出かけになろうとする後をお慕いなさることもあって、そのようなのを光る君は非常にかわいらしいとお思いになっておりました。
二、三日内裏にお仕えし、そのまま左大臣家にいらっしゃるような時は、たいそう気落ちなさるので、光る君も心苦しくて、母親のいない子を持ったような気分がして、外泊もお心が落ち着かずにいらっしゃいました。
北山の僧都はそれを聞いて、奇妙さを感じつつも嬉しく思っていらっしゃいました。
亡くなった尼君の法事などをなさる時にも、光る君は厳かに弔問なさっていたのです。
※雰囲気を重んじた現代語訳となっております。
紫の君の近辺の人物関係図をおさらいしておきましょう。
という感じでした。
光源氏は、紫の君の父親を出し抜いて自分の家に強引に連れてきたのでしたね。(この辺り)
人さらいめ。
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