一寸法師[原典版]②


~前回のあらすじ~

子どもができなかったお爺さんとお婆さんは住吉大社にお詣りして子を授かるようにお祈りをすると、その御利益によって子が生まれたのですが、生まれた赤ちゃんは1寸の大きさしかなかったので、その子を一寸法師と名付けました。十数年間育てたのですが背は全く大きくなりません。嘆いたお爺さんとお婆さんは、一寸法師をどこかへ追い出したいと考え始めました。それを知った一寸法師は自ら家を出て京へ行くことにしたのでした。

さて、今回はどんな展開を見せるでしょうか。


【現代語訳】

こうして一寸法師は鳥羽の船着場に到着すると、その辺にお椀の舟を乗り捨てて都へ行き、あちらこちらを見ていたのですが、四条、五条の有り様といったら想像を遙かに超えた雅やかさで言葉にし尽くせるものではありませんでした。

そして、三条の宰相殿と申した人の邸に立ち寄って、

「ごめんください」

と言うと、宰相殿はお気づきになって、かわいらしい声だと思って縁側の先へ出てご覧になったのですが、誰もいません。

一寸法師は、人に踏み殺されてはたまらないと思って、庭先にあった高下駄の歯の間に隠れて呼びかけていたのです。

宰相殿は、「不思議なことだ。人は見えずにかわいらしい声で呼びかけてくる。出てみよう」とお思いになり、高下駄を履こうとなさった時、

「お踏みにならないでください」

と一寸法師が申しました。不思議に思った宰相殿がよく見てみると、これまでに見たこともない小さな小さな人間がいるのに気がついて、実に面白いものだと思ってお笑いになりました。

こうして宰相殿のお屋敷で暮らすことになった一寸法師は十六歳になりましたが、背丈はもとのままです。

ところで、宰相殿には十三歳になる姫君がいらっしゃいました。大変に美しい方でしたので、一寸法師は一目惚れをしてしましました。それ以来、どうにかして結ばれたいと思案を巡らしました。

ある時、一寸法師は貢ぎ物のお米を取って茶袋に入れると、寝ていらっしゃった姫君の口元に米粒をくっつけ、茶袋だけを持って泣いていました。宰相殿がそれをご覧になって、泣いているわけをお尋ねになると、

「私がずっと集めていたお米を、姫君が取って食べてしまわれたのです」

と申し上げたところ、宰相殿はカンカンに怒りなさって見てみると、一寸法師の言った通り、姫君の口元に米粒がくっついていました。

「お前の言うことは嘘ではなかった、このような者を都に置いておくわけにはいかない。殺してしまえ」

と一寸法師にお命じになりました。そこで一寸法師が姫君に申し上げました。

「あなたは私の物を盗みなさったということで、姫様の始末は私に任せる、とのことでした」

そう言うと、心の中はこの上ない喜びに満ちていました。姫君はただただ呆気にとられ、夢のような心地がしていらっしゃいました。


え!? 一寸ちょっと悪い奴じゃん!!笑
エェェェエ!!!!(゚ロ゚ノ)ノ

そして、些細なことで即座に死刑宣告する宰相殿って・・・
∑(〇Д◎ノ)ノ

絶句ですね。

それにしても、難波から鳥羽の旅はどうだったのでしょうね。

鳥羽というのは桂川と鴨川が合流する辺りとのことです。

難波の海岸からお椀の舟に乗り、淀川を遡って鳥羽の船着場に到着したわけです。

淀川を逆走するルートは平安時代にもありました。

紀貫之は土佐から帰京するときにやはり舟で淀川を逆走していますし、『源氏物語』の玉鬘も筑紫から京を目指すのにやはり舟で淀川の河口まで来るシーンがありますが、おそらくそのまま舟で淀川を逆走したものと思われます。

しかし、一寸法師の舟はお椀ですし、箸で漕いでいるわけですから、川なんて逆走できるのか?笑


【原文】

かくて鳥羽の津にも着きしかば、そこもとに乗り捨てて、都に上り、ここやかしこと見る程に、四条五条の有様、心もことばにも及ばれず。さて、三条の宰相殿と申す人のもとに立ち寄りて、「物申さん」といひければ、宰相殿は聞こし召し、おもしろき声と聞き、縁のはなへ立ち出でて御覧ずれども人もなし。一寸法師、かくて人にも踏み殺されんとて、有りつる足駄の下にて、「物申さん」と申せば、宰相殿、不思議のことかな、人は見えずしておもしろき声にて呼ばはる、出でてみばやと思し召し、そこなる足駄履かんと召されければ、足駄の下より、「人な踏ませ給ひそ」と申す。不思議に思ひて見れば、一興なるものにてありけり。宰相殿御覧じて、げにもおもしろき者なりとて御笑ひなされけり。

かくて年月送る程に、一寸法師十六になり、せいはもとのままなり。さる程に宰相殿に、十三にならせ給ふ姫君おはします。御かたちすぐれ候へば、一寸法師姫君を見奉りしより思ひとなり、いかにもして案をめぐらし、わが女房にせばやと思ひ、ある時みつもののうちまき取り、茶袋に入れ、姫君の臥しておはしけるに、はかりごとをめぐらし、姫君の御口にぬり、さて茶袋ばかり持ちて泣きゐたり。宰相殿御覧じて、御尋ねありければ、「姫君の、童がこのほど取り集めて置き候うちまきを取らせ給ひ、御参り候」と申せば、宰相殿大きに怒らせ給ひければ、案のごとく姫君の御口につきてあり。「まことはいつはりならず、かかる者を都に置きて何かせん、いかにも失ふべし」とて、一寸法師に仰せつけらるる。一寸法師申しけるは、「童が物を取らせ給ひて候ほどに、とにかくにもはからひ候へとありける」とて、心のうちにうれしく思ふこと限りなし。姫君はただ夢の心地して、あきれはててぞおはしける。

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