日がすっかり暮れたので、大殿油を近くに取り寄せなさり、それにふさわしい女房たちだけを前にしてお話をしていらっしゃいます。
中納言の君という女房は、長らく光る君が密かに思いを寄せていらしたのですが、この時ばかりはご心痛のためにそのようなお気持ちにはなりません。
中納言の君は「素晴らしいお心だわ」と思い申し上げていました。
ただ他の女房たちと同じ存在として親しげにお話しなさって、
「このように、最近は以前にもまして誰にも邪魔されることなくお前たちと顔を合わせてきたから、この先こうしてばかりもいられなくなれば、恋しくならないだろうか。非常につらく悲しい気持ちなのは当然だが、それはさておいても、考えれば考えるほど、耐えがたいことが多いものだ」
とおっしゃるので、それを聞いた女房たちはみないっそう泣いて、
「我らが主がお亡くなりになってしまったこと、ただただ真っ暗な気持ちがしますので…」
「それもそうですが、光る君様が未練もない様子でここを出て行きなさるのを想像しますと…」
と、最後まで申し上げることができずにいました。
その様子を見渡した光る君は気の毒にお思いになって、
「どうして未練がないなどということがあろうか。私のことを心の浅い人間だと思っていらっしゃるのですね。気の長い人がいれば、私の真心の深さを見届けなさるだろうに。無常なこの世だから命のはかなさだけは自分にも分からないが」
と言って灯火をぼんやりと眺めなさっている目もとが涙に濡れてらっしゃる様子は、これもまた麗しく素晴らしいものがあります。
葵の上が特別にかわいがっていらっしゃった、あてきという童女には親もなくて非常に心細く思っている様子だったのを、無理もないことだとお思いになって、
「あてきよ、これからは私を頼りにするしかないようだね」
とおっしゃると、あてきは激しく泣いてしまったのですが、人一倍黒く染めた丈の短い衵の上に黒い汗衫を着て、橙色の袴を履いているその姿はかわいらしくございました。
※雰囲気を重んじた現代語訳です。
中納言の君というのは序盤ですでに光源氏のお気に入りとして登場していました。(参照)
それから、「あてき」という童女が出てきましたが、実は中宮彰子に仕えていた童女に同名の子が実在していました。
物語を創作するにあたって、紫式部が身のまわりから影響を受けていたことが分かりますね。
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