源氏物語~葵~(28)


左大臣がすぐに光る君のもとにお越しになりました。

非常に耐えがたく思っていらっしゃる様子で、涙を拭う袖を顔からお離しになることができません。

それを拝見する女房たちもたいそう悲しい気持ちがしました。

光る大将の君はこの世の中について色々と考えを巡らしてお泣きになる、その様子はしみじみとあわれ深いものの、そのお姿はとても優美でいらっしゃいます。

左大臣は長らく気持ちを静めなさってから、

「年老いた身には、些細なことでも涙もろいものですのに、まして娘を亡くした悲しみの涙は乾く暇もなく、思い乱れております心を落ち着けることができませんので、人目にも非常に取り乱した情けない姿に映るでしょうから、院のもとに参上することもできません。ことのついでに、ほのめかしてそうお伝えください。余命幾ばくもございません老いの末に、娘に先立たれてしまったのがつらくて仕方ありません」

と、無理矢理に気持ちを抑えておっしゃる様子は見ていてたいそうつらいものがありました。

光る君もたびたび鼻をかんで、

「誰かに死に後れたり先立ったり、人の寿命がまちまちなのは無常なこの世の定めだと、私も分かってはいるつもりでしたが、実際に大切な人の死に直面してみると、心の動揺は比類ないものです。院にも、義父殿の様子をお伝え申し上げれば、お分かりいただけることでしょう」

と申し上げなさいます。

「では、時雨もやみそうにありません。暗くならないうちに」

と、光る君を促しなさいました。

見回しなさると、御几帳の後ろや、襖障子が開け放たれている向こう側などに、三十人ほどの女房がかたまって、濃かったり薄かったりする鈍色の衣を着ながら、皆とても心細そうに涙を流しながら寄り集まっているのをご覧になると、光る君は非常にかわいそうな気持ちにおなりになります。

※雰囲気を重んじた現代語訳です。


光源氏が左大臣邸を退出するだけなのですが、大事のようになっていますね。

原文はけっこう難しくて読みにくいのですが、ここはちょうど授業でも扱う箇所です。

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