源氏物語~葵~(30)


左大臣は、光る君の走り書きを大宮に御覧に入れなさると、

「私たちの娘が亡くなってしまったのは仕方のないことで、このような悲しい類いはこの世にないわけではないと強いて思いこみながらも、親子としてこの世での縁が長くは続かず、このように親の心を乱す宿命を持って生まれた子であったのだろう、と思うとかえってつらく、前世の行いが悪かったのかとまで思いを馳せながら悲しみを静めてきましたのに。ただ、日が経つにつれて、恋しさが耐えがたく、また光る大将の君がこれからは余所の人におなりになってしまうことが非常に残念なことに思われてなりません。これまで、一日、二日とお見えにならず、それでもたまにはお出でくださったにも関わらず、不満で胸が痛く思われましたのを、朝夕の光を失ってしまってはこれからどうやって生きていけばよいのだろうか」

とお話しになりながら、堪えきれずに声を上げてお泣きになると、お側にいた年配の女房なども悲しさの余りに涙を流している光景は、ただでさえ寂しい秋の夕暮れに寒々しさを添えていました。

若い女房たちはあちこちに固まって座りながら、それぞれしんみりと言葉を交わしています。

「光る君がおっしゃる通り、若君をお世話し申し上げることで気が紛れるだろうとは思うけれど」

「たいそう幼い忘れ形見ですわ」

「ちょっと実家に帰ってからまた改めて参上することにしようと思うんだけど」

などと言う者もいるので、互いに別れを惜しむ様子は、それぞれにしみじみするようなことが多くあります。

※雰囲気を重んじた現代語訳です。


前回光源氏が出かけた後の、左大臣の長尺のセリフと故葵の上に仕えてきた女房たちの会話です。

特に補足説明はありません。

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