例によって光る君のお供として付き従っている惟光が、
「亡き按察大納言の家でございまして、とあるついでに訪ねてみたところ、
例の尼上はひどく弱りなさってしまっているので何も分からない、と申しておりました」
と申し上げると、
「気の毒なことだ。お見舞いするべきだったのに、どうして早く教えてくれなかったのだ。
中へ入って挨拶してきなさい」
とおっしゃるので、人を入れて取り次ぎを求めました。
六条の愛人の所へ行くことは伏せ、わざわざやって来たように言わせたので、すんなりと中に入った惟光は、
「光る君様がお見舞いにいらしております」
と言うと、家の者は驚いて、
「大変もったいないことです。この数日、ひどく弱々しくおなりになってしまったので、御対面は難しいかと存じます」
とは言うものの、そのままお帰し申し上げるのは畏れ多いので、南の廂の間をしつらえて、光る君をお迎えしました。
「たいそう不体裁な所ですが、わざわざお出でくださったお礼だけでもしなければと思いまして。
思いもよらない、薄気味悪い御座所だとお思いになるかもしれませんが」
と申し上げました。確かにこのようなのはいつもと違うことだと光る君はお思いになっておりました。
「お見舞いに伺うことは常々心に決めていたのですが、張り合いのないお返事ばかりをくださるので、
気が引けてしまっていたのです。
しかし、ここまで重い病でいらっしゃるとお聞きしていなかったのは歯がゆい思いがします」
などと申し上げなさるのでした。
※雰囲気を重んじた現代語訳となっております。
六条御息所を訪ねる途中、薄暗く庭木が生い茂った家がありました。
それが北山の尼君のいる家だったのです。
「亡き按察大納言」というのが尼君の夫だった人でしたね。
ということで、紫の君にも会いたい光源氏はお見舞いもかねて寄り道したのでした。
では。
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