尼君がおっしゃいました。
「気分がすぐれないのは、いつものことなのですが、このように死も間近になりまして、
たいそう畏れ多くもお立ち寄りくださったのに、直接応対できずに申し訳ございません。
以前からおっしゃっている姫君の件ですが、もし万が一お気持ちが変わらないのでしたら、
今のように無理な年齢が過ぎましてから、どうかご寵愛くださいませ。
あの子を残してゆくのは心配で心配で、
こんなにもこの世に未練が残っていては、極楽往生の妨げになるのではないかと思われてなりません。
それにしても、このようにわざわざお見舞いにお越しくださったことは非常に畏れ多いことでございます。
せめて、姫君がお礼を申し上げることがおできになるような年齢であればよかったのですが・・・」
などと、取り次ぎの者に申し上げなさいましたが、
距離がとても近いので、心細く弱々しい御声が途切れ途切れに聞こえてきて、光る君はしんみりしたお気持ちになり、
「どうして、いい加減で浅はかな気持ちからこのような物好きで好色めいたお願いを申し上げたりしましょうか。
どういう宿命か、初めて姫君を見申し上げた時から、こんなにもしみじみ愛しく思われたのも不思議なことで、
前世からの運命を感じずにはいられません。
せっかくこうしてやってきたのですから、あのあどけない御声をほんの一言だけでもお聞きしたいものです」
とおっしゃると、
「いやはや、何もお分かりになっていない様子で、もうお休みになってしまいまして」
などと女房が申し上げたちょうどその時に、向こうからやってくる音がして、
「お祖母様、あの山寺にいた源氏の君がいらっしゃっているというのに、どうしてお会いにならないのですか」
とおっしゃると、女房たちは、非常に気まずく思って、
「お静かに」
と申し上げました。
「あら、源氏の君のお姿を見たら具合が良くなった、って前にお祖母様がおっしゃっていたから言っているのよ」
と、ご自身では良いことを思い出して言っていると思っておいでのようでございます。
非常におかしく聞いていらっしゃった光る君でしたが、女房や尼君が心苦しく思っているので、
聞こえないふりをして、まじめなお見舞いの言葉を残してお帰りになりました。
※雰囲気を重んじた現代語訳となっております。
尼君のお見舞いシーンです。
実はこの本文は塾のテキストとしても取り上げられている部分です。
高校2年生が読解するにはかなり難しいのですが。
紫の君はもう寝てしまったと嘘をついたちょうどその時に出てきてしまう紫の君。
非常にあどけないのですが、光る君はキュンキュンしているようです。笑
ではまた次回。
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