光る君は、おっしゃった通り、十六夜の月が趣深く出ている中、お出でになりました。
「とてもお気の毒なことですよ。澄んだ音色が出そうにもない夜ですのに」
と申し上げましたが、
「向こうに行って、一声おかけして弾くように促してきなさい。空しく帰るのは癪なことだよ」
とおっしゃるので、くつろいだ部屋に光る君をお残しして、
気が引けるし、畏れ多いと思いつつも寝殿に参上したところ、
まだ格子も下ろさず、庭に咲く芳しい香の梅の木を眺めていらっしゃいました。
ちょうど良いと思って、
「今夜は琴の音色もどんなにか聴き映えすることでしょう、と思ってやって参りました。
いつもはせわしない訪問でお聞きできず、残念に思っておりました」
というと、
「聴いて分かる人のようですね。内裏に勤めている人に聴かせるほどのものではありませんが」
といって琴をお取り寄せになったので、ただもう光る君がどうお聞きになるだろうかと、胸の潰れる思いがするばかりでした。
姫君がかすかに琴を掻き鳴らしなさると、素晴らしく響きました。
特別に技術が優れているわけではありませんでしたが、
楽器の性質上、光る君もその音色が悪いとはお思いになっておりません。
たいそうひどく荒れて寂しい邸に、これほどの人が古めかしく窮屈そうに暮らしていて、
大事に育てられていていた名残もなく、どんなにか無念なことでしょう。
このような所にこそ、昔の物語でもしみじみ胸を打つようなことがおこるものだ、などと思い続け、
姫君に声を掛けてみようかな、ともお思いになったのですが、
唐突だとお思いになるだろうと気が引けて、ためらっていらっしゃいました。
※雰囲気を重んじた現代語訳となっております。
梅が咲いているので、1月の出来事のようです。
複雑な展開はありませんね。
本当は前回載せておけば良かったのですが、忘れたので今回人物関係図を整理しておきます。
大弐の乳母は直接は関係ないのですが、前回「大弐の乳母の次に慕っていらっしゃる乳母」として左衛門の乳母が出てきたので、参考までに。
大弐の乳母は「夕顔」巻で登場し、病気を患って出家したんでしたね。(参照)
そして乳母子である惟光が光源氏の腹心の従者として何かにつけ行動をともにするのでした。
で、左衛門の乳母にも当然子がいるのですが、こちらの乳母子である大輔の命婦も光る君と仲が良いようで、今回手引きを頼まれて末摘花に琴を弾かせることに成功しました。
では今回はこの辺で。
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