浦島太郎[原典版]②


乙姫

乙姫(乙ちゃん)by.au

~前回のあらすじ~

丹後国で釣りをしながら両親を養っている青年、浦島太郎。ある日、一匹の亀を釣り上げたけれど、気の毒に思って海に帰してやりました。次の日、また釣りに出かけると、今度は一人の女性が小舟に乗って近づいてきました。事情を聞いてみると、大荒れの海で乗っていた舟が難破して、どうにか小舟に乗り換えて漂流してここまで来たとのこと。浦島はこの女性を故郷まで送り届けてやりました。

本編とは関係有りませんが、auのCMで乙姫を演じてから、菜々緒の個人的好感度が急上昇しました。

ではさっそく続きに行きましょう。


【現代語】※なるべく直訳

さて、船から上がって、どんな所だろうか、と思うと、銀の塀に囲まれ、金の屋根瓦を並べ、立派な門を建て、天上界の邸宅がどんなに立派だったとしても、これに勝るということはあるはずもございません。

この女の邸宅はそれ程に見事で、筆舌に尽くしがたいものだったのです。

そして女が申したことは、

「旅の途中、見知らぬ者どうしがたまたま一樹のもとに休息し、同じ川の水を汲んで喉を潤すことも、“袖すり合うも多生の縁”というものです。まして、この広い海をはるばるとお送りくださったことは前世からの宿命に違いないのですから、何の心配も要りません。わたくしと夫婦の契りをお交わしになって、ここで一緒に暮らしてくださいませんか」

と懇切丁寧に語りました。これに対し、浦島太郎が申したことは、

「ともかくも、お言葉に従いましょう」

と申し上げました。そうして、一生涯の夫婦となる契りを固く結んだのです。

天であれば比翼の鳥、地上であれば連理の枝のように仲の良い夫婦になろうと、互いにおしどり夫婦となる誓いを立て、日々をお暮らしになるのでした。

さて、女が申したことは、

「ここは竜宮城と申す所で、この邸の周囲に四季の草木をあしらっております。どうぞこちらへお入りください。お見せしましょう」

といって、浦島太郎の手を引いて部屋を出ました。

まず東の戸を開けてみると、春の景色と思われて、梅や桜が咲き乱れ、柳の糸も春風に揺れ、霞がたなびく中から、鶯の鳴き声が軒近くに聞こえ、あらゆる梢に花が咲き誇っているのです。南の方を見てみると、夏の景色と見え、春との境の垣穂には、卯の花がまず咲いているようで、池の蓮は露をあび、汀には涼しげなさざ波が寄せて、多くの水鳥が遊んでいました。木々の梢も茂って、空に響きわたる蝉の声、夕立が通り過ぎてゆく雲間から、声をたてて飛ぶホトトギスが鳴くことで、夏であることを知らせていました。西は秋と見えて、一面の梢も紅葉し、籬の内に咲く白菊、霧が立ちこめる野の奥の方には、萩に置く露をかき分けながら寂しげに鳴く鹿の声に、秋を感じました。そして同じように北を眺めると、冬の景色と見えて、一面の梢が冬枯れして、枯葉に降りた初霜、真っ白く雪化粧された山々、雪に埋もれた谷の出入り口に、炭竈から昇る心細い煙はまさしく貧しい民の生活で、冬らしい景色であることです。


【語釈】

・一生涯の夫婦となる契りを固く結んだのです…原文では「偕老同穴の語らひも浅からず」。偕老同穴は四字熟語で、夫婦が仲良く年を取り、同じ墓に入る、の意。

比翼の鳥連理の枝…これらも仲の良い夫婦の喩え。まとめて「比翼連理」という四字熟語にもなる。


どうやらこの女性が乙姫のようですね。

けっこう強引に結婚まで持っていった豪腕ぶりは、菜々緒の乙姫に近いでしょうか。笑

そして名高き竜宮城ですが、海底にあるという設定は取られていませんでしたね。

あと、「梅や桜が~」のあたりからは綺麗な七五調で書かれているので、ぜひ原文を味わってみて欲しいです。


【原文】※岩波文庫『御伽草子(下)』

さて船より上がり、いかなる所やらんと思へば、銀の築地をつきて、金の甍をならべ、門をたて、いかならん天上の住居も、これにはいかで勝るべき。此女房のすみ所、ことばにも及ばれず、中々申すもおろかなり。さて女房の申しけるは、「一樹の蔭に宿り、一河の流れを汲むことも、皆これ他生の縁ぞかし。ましてや遥かの波路を、はるばると送らせ給ふ事、ひとへに他生の縁なれば、何かは苦しかるべき、わらはと夫婦の契りをもなし給ひて、同じ所に明し暮し候はんや」と、こまごまと語りける。浦島太郎申しけるは、「ともかくも仰せに従ふべし」とぞ申しける。さて偕老同穴の語らひも浅からず。天にあらば比翼の鳥、地にあらば連理の枝とならんと、互に鴛鴦の契り浅からずして、明し暮させ給ふ。

さて女房申しけるは、「これは竜宮城と申す所なり、此所に四方に四季の草木をあらはせり。入らせ給へ、見せ申さん」とて、引具して出でにけり。まづ東の戸をあけて見れば、春の景色と覚えて、梅や桜の咲き乱れ、柳の糸も春風に、なびく霞のうちよりも、鶯の音も軒近く、いづれの木末も花なれや。南面を見てあれば、夏の景色とうち見えて、春をへだつる垣穂には、卯の花や、まづ咲きぬらん、池の蓮は露かけて、汀涼しきさざなみに、水鳥あまた遊びけり。木々の梢も茂りつつ、空に鳴きぬる蝉の声、夕立過ぐる雲間より、声たて通るほととぎす、鳴きて夏とや知らせけり。西は秋とうち見えて、四方の梢も紅葉して、籬の内なる白菊や、霧たちこむる野辺の末、真萩が露を分け分けて、声ものすごき鹿の音に、秋とのみこそ知られけれ。さて又北をながむれば、冬の景色とうち見えて、四方の木末も冬がれて、枯葉に置ける初霜や、山々やただ白妙の、雪に埋るる谷の戸に、心細くも炭竈の煙にしるき賤がわざ、冬と知らする景色哉。


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