源氏物語~紅葉賀~(13)


源氏物語-紅葉賀

「おやまあ。そんなことをおっしゃるようになったのですね。でも、『みるめに飽く』ようなのは良くないことなのですよ」

といって、御琴を取り寄せて紫の君にお弾かせになります。

「箏の琴は、真ん中の細弦が切れがちなのが厄介だよ」

といって、光る君は調子を平調に下げて、掻き鳴らしなさいました。

少しだけ試し弾きをなさり、紫の君の前に差し出しなさると、先ほどのお恨みもそこそこに、たいそうかわいらしくお弾きになります。

まだ小さいお身体で、左手をのばして弦を揺らしなさる手つきがとてもかわいく思われて、光る君は笛を吹き鳴らしながらあれこれ教えなさるのでした。

非常に聡明な紫の君は、難しい調子のものを難なく一度で学び取りなさいました。

総じてこの女君は洗練されており、風情あるお心なので、「望んだ通りになったよ」とお思いになっていました。

『保曾呂俱世利』という曲は、曲名こそ嫌な感じですが、光る君は美しくお吹きになり、合奏なさると、紫の君の演奏にはまだ未熟なところもありましたが、拍子を外さず上手にお弾きになるようです。

灯りをともして、お二人で絵を御覧になっていると、お出かけになると伝えてあったので、お供の者たちが咳払いをして、

「雨がふってきそうです」

などと言って光る君のお出かけを促すので、姫君はまたしょんぼりとうなだれなさってしまいました。

絵を見るのもやめてうつむいていらっしゃるのがとてもいじらしく思えて、前髪が美しくこぼれかかっているのをそっと撫でつつ、

「私が余所へ行ってしまうと寂しいですか」

とおっしゃると、うなづきなさいます。

「私も、一日でもあなたに会わずにいるとつらくてたまらないのですよ。でも、幼くていらっしゃるうちは安心な気がして、まずはひねくれた心ですぐに恨みごとを言ってくる人の機嫌を損ねないようにするため、面倒ですがこうしてちょっと出歩くのです。あなたが大人になったら絶対にどこにも行きません。他の女から恨みを買うまい、と思うのも、この世に少しでも長くいて思う存分あなたと一緒にいたいと思うからなのですよ」

などと言葉を尽くしてお話しになると、女君もさすがにきまり悪くなってお黙りになってしまいました。

そして光る君の膝に寄りかかってお眠りになってしまったので、とてもかわいそうに思われて、

「今夜の外出は取りやめた」

とおっしゃるので、女房たちはみな立ち上がってお膳などを運び込ませました。

姫君を起こしなさって、

「出かけるのはやめにしましたよ」

と申し上げなさると、喜んで起き上がりなさって、一緒にお食事を召し上がるのでした。

ほんの少し召し上がると、

「ではお休みになってくださいね」

と、自分が寝た後にこっそりお出かけになるのではないかと心配していらっしゃるので、例えどんな道でもこのような人を見捨てて行くことなどできないとお思いになりました。

※雰囲気を重んじた現代語訳となっております。


ちょっと長くなりました。

まず、光源氏の最初の台詞中にある「みるめに飽く」についてです。

これは前回の最後に紫の君が「いりぬる磯の」と引き歌をしたのに応じて、光源氏も引き歌をしたのです。

伊勢の海人の朝な夕なにかづくてふみるめに人を飽く由もがな

という『古今和歌集』の歌を引いたものだと言われています。

4つ注釈をつけます。

①「かづく」…「潜く」と漢字表記され、その漢字の通り「潜る」の意味
②「みるめ」…「海松布」と「見る目」の掛詞
③「飽く」…現代語と違って「満足する、満ち足りる」の意味
④「もがな」…願望の終助詞で「~があればなあ」の意味

伊勢の漁師が朝も夕も海に潜って海松布を採るというが、私にも満ち足りるまであなたを見る手段があればなあ。

ということです。

さて、光源氏はこの歌を引いて、「それは良くない」と言っているのはなぜでしょうか。

当時の貴族達の夫婦生活の常識として、ずーっと夫婦が一緒に暮らすものではない、つまり一夫多妻制で通っていく女性が複数いる(特に光源氏の場合は大勢)ものだということを教えなければならなかったのでしょうね。

 

それから、「箏そうの琴」が出てきましたが、これは中国伝来の十三弦の琴です。

お琴の知識はまーったくないので調べに調べましたよ。

奏者から遠い方の弦が低い音、近い方の弦が高い音になります。

そして、遠い方から順に「一・二・三・四・五・六・七・八・九・十・斗・為・巾」と弦に名前が付けられているそうです。

一弦~五弦:太緒(太い弦)
六弦~十弦:中緒(中太の弦)
斗弦~巾弦:細緒(細い弦)

原文では「箏の琴は、中の細緒の堪へがたきこそところせけれ」と出てきます。

細緒は「斗(と)・為(い)・巾(きん)」なので、その真ん中「為」の弦が「中の細緒」です。

奏者から2番目に近い弦ですね。

これがなぜ「巾」よりも切れやすいのかは分かりません。

とりあえず、参照したサイトはこの2つです。
源氏物語歌舞管絃

お世話になりました。<(__)>

実際の箏の音色を鑑賞しながら今回はお仕舞いにしましょう。

それにしてもこの回の紫の君はかわいいですね~。
+。:.゚(惚´∀`*人)゚.:。+゚

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