源氏物語~葵~(20)


空しく時がすぎていき、亡き娘のために法事の準備などを七日ごとになさるのも、こんなことになろうとは思ってもみなかったことだったので、この上ない嘆きは尽きることがありません。

取り立てて言うほどのこともない平凡な子であったとしても、親というのは宝物のように慈しむものですから、その子を亡くしたら、その悲しみははかりしれないものでしょう。

まして、本当に世にも稀なほど素晴らしいお方だったのですから、ご両親の深い嘆きも当然のことです。

また、この方の他には女の子をお持ちでなかったことが前々から物寂しく思われていたのに、そのたったお一人の姫君までも失ってしまったのですから、余計に落胆ぶりが激しいようでした。

光る大将の君は、二条の自邸にさえまったくお帰りにならず、しみじみと深くお嘆きになって、神妙に仏事を行いなさりつつ、日々をお過ごしになります。

女性たちにはお手紙だけを差しあげなさいます。

六条の御息所については、娘の新斎宮が左衛門の司にお入りになり、ますます神聖であることにかこつけてお手紙のやり取りもなさいません。

光る君は、世の中を身にしみてつらくお思いになっていたのですが、何もかもがすっかり厭わしく思われて、

「このようなわが身の自由を妨げる幼い子さえ生まれていなければ、思うままに出家して仏の道に入るのだが…」とお思いになりましたが、その時ふと二条院で暮らしている紫の姫君が寂しそうにしていらっしゃる姿が脳裏に浮かびました。

夜は御帳の内にひとりでお休みになって、近侍する女房たちは周囲を取り囲むようにお仕えするのですが、やはり人肌が恋しく寂しくて、季節もちょうど物寂しい秋でもあったので寝覚めがちでいらっしゃいます。

良い声をした僧侶だけを選んで伺候させなさるのですが、その念仏が静かに響き渡る夜明けごろなど、耐えがたいほどの悲壮感に覆われるのでした。

「秋が深まるにつれて、しんみりとした雰囲気がましてゆく風の音が身にしみることよ」と、馴れない独り寝に夜が明けるのが遅く感じられている朝ぼらけ、霧が立ちこめる中、咲きかけた菊の枝に濃い青鈍色の手紙を結びつけたのを置くと、さっと立ち去ってしまいました。

「今の状況にぴったりなことを」と思ってご覧になると、六条御息所の筆跡でした。

※雰囲気を重んじた現代語訳です。


斎宮とは、未婚の皇女の中から選ばれて伊勢神宮に奉仕する方でした。

神聖な身なので、様々な儀式を経て任に就くようなのですが、よく分からないのでパス。笑

何にせよ、六条御息所の近辺がそういった儀式があることにかこつけて、光る君は距離を取っています。

六条御息所の生き霊に正妻・葵の上が命を奪われたのですから、当然と言えば当然でしょう。

しかし、それにしびれを切らせた六条御息所の方から手紙が届いたところで今回はおしまいです。

その手紙は「青鈍色あおにびいろ」だったとのことです。

前回、鈍色をやりましたが、青みがかった鈍色なのは想像に難くないですね。

青鈍色

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