斎宮の伊勢への下向が近くなるにつれて、六条御息所は心細いお気持ちになっていきました。
並々ならず目障りに思っていらした葵の上がお亡くなりになった後、「こうなったからには、六条の御方が光る君の正式なご内室におなりになるだろう」と世の人も申し上げ、御息所の周りも期待に胸を弾ませていたのですが、その期待とは裏腹に、光る君の御訪問はすっかり途絶え、嘆かわしい待遇となってしまっていたのです。
「心底から嫌われてしまったのだわ」と、光る君のお心をすっかり悟りなさったので、光る君への愛情は捨て去り、娘の斎宮とともに伊勢へと下ることをお決めになりました。
親が随行なさるという前例はございませんが、非常に見放しがたい御有り様であるのにかこつけて、俗世を離れようとお思いになるのですが、そうなると今度は光る君の方が完全なお別れになることを残念にお思いになって、しみじみと胸を打つようなお手紙を度々お寄越しになりますが、それでも訪問なさることはありませんでした。
御息所も、今さら光る君にお会いになるようなことはあってはならない、と思っていらっしゃいます。
「あの方は私のことを気に入らないと思っていらっしゃるようだし、私の方も、会えば今以上に気持ちが乱れるだろうから、どう考えても会うのは無益なことだわ」と強く心に決めていらっしゃるのでしょう。
六条のお屋敷にもかりそめにお戻りになることもたまにあったのですが、たいそう人目を忍んでのことだったので、光る大将殿はまったくご存知ではありませんでした。
野宮は、光る君が気軽にお訪ねできるような所ではまったくございませんので、じれったいお気持ちのまま月日ばかりがすぎていきました。
その頃、桐壺院が、それほど重くはないものの御病気を患いなさって、時々お苦しみになるので、光る君はますますお心に余裕などありませんでしたが、
「あの方が私を薄情な人間だと思い込みなさるようなことをしては、あの方にとっても気の毒だし、私にとっても外聞が悪いのではないか」と決心なさって、野宮に参上なさることにしました。
※雰囲気を重んじた現代語訳です。
前巻で正妻・葵の上を亡くした光源氏でしたが、この巻は六条御息所の話から始まりました。
野宮というのは、斎宮に選ばれた方が伊勢神宮に入る前、1年間籠もる場所です。
京都の嵯峨野にある野宮神社がそれです。
いつか行ってみたいと思っています。
「賢木」は、六条御息所・桐壺院・藤壺中宮・紫の君・朧月夜、と様々な人物たちによって様々な事件が起こる大変な巻です。
長い巻ですが、頑張っていきます。
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