徒然草~亀山殿の御池に~


何かひとつ「強み」を持てるといいですよね。

得意分野といっても良いと思います。

真面目なところで言えば受験生もそう。

ひとつ得意な科目を作ると他教科へも良い影響が出ることが多いです。

狭く見れば、例えば歴史などは得意な時代や地域ができるとどんどん良い方向に広がっていくようです。

もっと真面目なところで言えば、松原夏海ちゃんはダンスが得意になってから事務所の移籍が決まり、

今少しずつ仕事が良い方に広がってきているようです。

ちょっとニュアンスは違いますが、『徒然草』の51段。


【原文】
亀山殿の御池に大井川の水をまかせられられんとて、大井の土民に仰せて水車を作らせられけり。
多くの銭を給ひて、数日に営み出だして、掛けたりけるに、おほかた廻らざりければ、
とかく直しけれども、つひに廻らでいたづらに立てりけり。
さて、宇治の里人を召して、こしらへさせられければ、
やすらかに結ひて参らせたりけるが、思ふやうに廻りて水を汲み入るることめでたかりけり。
よろづに、その道を知れる者はやんごとなきものなり。


【語釈】
◯「まかせられん」
「引す」と書いて「まかす」と読む。水を引き入れること。「られ」は尊敬の助動詞、「ん」は意志の助動詞。なお、「作らせられけり」「こしらへさせられければ」も尊敬の助動詞。

◯「おほかた廻らざりければ」
おほかた~打消」は重要な副詞の呼応。「決して/まったく~ない」と強い否定文になる。

◯「つひに廻らで」
接続助詞の「で」は「~しないで/せずに」という打消接続の用法を持つ。

◯「いたづらなり」
スーパー重要語。無駄だ、の意味。漢字で書くと「徒らなり」。

◯「めでたし」
スーパー重要語。素晴らしい、立派だ、の意味。

◯「やんごとなし」
スーパー重要語。①高貴だ捨てておけない、の意味で使われることが多い。が、ここでは、格別だ、尊い、の意味で使われている。


受験勉強よりも、もっと専門性の話です。

ダンスが得意な夏海ちゃんにいたっては、ダンサーになるつもりはないらしい(笑)

いやいや、それはそれでいいんです。

そこを足がかりにして、今仕事が上手く回り始めてるんだから。

一方、回らなかった水車の話を整理してみると。

亀山殿というのは現在天龍寺があるところで、後嵯峨上皇と亀山天皇が離宮としていた所です。

そこに大井川から水を引いてくるために水車を作ろう!

ということで、大井川近辺の住人を使って水車を作らせたのですが、ちっとも回らない。

「やっぱ餅は餅屋だな」というわけで水車製作のプロフェッショナル(?)を導入したところ快調だった、と。

宇治川の水車というのは古来有名だったのですね。

どんなジャンルにせよ、専門性を身につけた人は素晴らしい、という結論です。

うん、単純明快。説明不要(笑)


【現代語訳】
亀山殿の御池に大井川の水をお引きになろうとして、大井川流域の住人にお命じになり、水車を造らせなさった。
大金をお与えになり、数日がかりで造って仕掛けてみたが、全然回らなかったので、
あれこれ手直ししたけれど、結局回らず、水車は無駄につっ立っていた。
そこで宇治の里人をお呼びになり、造らせたところ、
簡単に組み立てて献上したのが、思い通りに回って水を汲み入れることといったら素晴らしかった。
万事、その専門の道をわきまえている者は格別である。

 

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