2012年 センター試験 古文


解いてみたなり。

まあ相も変わらず「知らねーよ」な出典で『真葛がはら』。

江戸中期の女流文学者・国学者、只野真葛の歌文集だそうです。


問1:傍線部訳の問題。
ア)高き手ぶりを見あきらめばや

まず「ばや」を自己の願望を表す終助詞と即断したい。この時点で①「見つけたい」⑤「見きわめたい」の2つに絞れる。④「見切りをつけよう」は「ばや」の訳としては疑問。②③は論外。

次に重要語「あきらむ」。「明らかにする、ハッキリさせる」という意味を持つ語。従って「見てはっきりさせたい」という意味であることが分かり、⑤となる。④はこの「あきらむ」の意味が明らかにおかしいのでやはり×。

イ)いとはしたなりと思ひ屈しつつ

決め手は「はしたなり」と「思ひ屈す」。

「はしたなり」は重要語「はしたなし」と同じだと判断したい。「はしたなし」は「中途半端だ/(中途半端で)きまりが悪い」を覚えておかなければならない。この時点で②「体裁が悪い」④「きまりが悪い」⑤「中途半端だ」の3つに絞れる。①③は論外。

「思ひ屈す」は「気がめいる/がっかりする」など、心が折れる感じ。仕事帰りに握手会に行ったのに2分遅刻して夏海たんと握手できなかった、あの感じが「思ひ屈す」。「思ひ屈ず(くんず)」とも言う。ここで④「気落ちしながら」が選べるはず。

ウ)本意にもこえて事なりぬれば

重要語めいたものも文法的に気をつけるようなものもない。

「事なりぬれば」は直訳すれば「事が成ったので」となる。つまり、完成した・成功した、ということが分からなければならない。すると、②の「成果を上げることができたので」しかないだろう。この文章の場合、思わぬつてができて書道の奥義を伝授され、書の道において成功したのである。


問2:文法問題

a:かの宮人つぶさに聞きて「・・・」と、うけがはたるに、

会話文の内容も重要。書道を究めるために田舎から上京したものの、身分の低さゆえ立ち往生してしまった境遇に同情し、宮人が仲介役を引き受ける内容となっており、「うけがふ」は引き受けるの意味だろうと推定できる。そこに接続している助動詞の「る」は、選択肢によると受身か尊敬。宮人が引き受けたのであり、受身では引き受けてもらったことになるから、当然ここは尊敬。この時点で選択肢は2つ消え、②④⑤が残る。

b:絃一筋ある琴なりき。

名詞に接続しているのだから、もちろん断定の助動詞である。この時点で②も消え、④⑤が残る。

c:玉の小琴にかけけるかも

動詞「かく」はカ行下二段活用。「かけ」は未然形か連用形だが、未然形の下に「に」が来ることはないので、連用形、そして「に」は連用形に接続する完了の助動詞と判断でき、この時点で答えは⑤と決まる。ちなみに、④の選択肢にある格助詞「に」も連用形に接続することはあるが、「泣き泣きて」など動詞の反復に挟まれている場合と、「見行く」など目的を表す場合である。


問3:傍線部から人物像を読み取る問題

傍線部は「行く先をようもたどらで」。

「行く先」が目的地のことなのか、後先のことなのか。もちろん後先のことで、「後先をよく【たどら】ないで」ということになる。「たどる」が分かればいいのだが。ちなみに、一色塾では高3の冬期講習(の一部クラス)で扱った教材に出てきた(冬期第4日目『松浦宮物語』)語である。ここでは「たどる」は分からないと仮定して話を進める。まず着目したいのは傍線直後の「おほけなし」。これは「身分不相応だ」という重要語。「おほけなく思ひ立ちぬることを思へば」とあるが、「身分不相応にも決心してしまったことを思うと」となる。自分の低い身分も考えずに上京したことを言っているのは間違いない。さらにその後には「井に住む鮒の大海に出でぬるに似たり」と比喩が来て、ここですべて分かる。「鮒」は「蛙」に置き換えればよい。「井の中の蛙」がうっかり大海に出てしまったことを言っている。後先も考えずに。ということで②の「無鉄砲」という言葉がドンピシャ。

ちなみに「たどる」は「あれこれ考える/考え迷う/迷いながら訪ね行く/探り当てる」など、スッとスムーズにいかない感じを言う語。


問4:傍線部から人物の心情を読み取る問題

傍線部は「いと不便なりつることかな」。

「不便(ふびん)なり」は「不都合だ・都合が悪い」の意味が基本だが、現代語の「ふびん」すなわち「不憫」の意味で使われることがないわけではない。一色塾の冬期センター古文ではその意味で出てきた問題を扱った。文脈的にも明らかに、気の毒に思って同情している箇所であり、それだけで①か④の2つに絞れる。ただし、④は同情した上で「でも仕方ないから諦めてくれ」となっているが、問2-aの解説にも書いたとおり、同情した上で、一役買おうとしているのだから④はおかしい。従って答えは①である。


問5:A~C三つの和歌に関する問題

まずAは鷹飼いの男(田舎から書を学びに上京した男)の歌。書道の奥義を会得した男が故郷に帰っていく、その時に宮人から琴を与えられて「これに歌そへよ」と命じられて読んだ歌なのだから鷹飼いが詠んだのに決まっている。ということで、Aの詠者を宮人としている①はこの時点でアウト。

②の選択肢はAの詠者を鷹飼いの男にしている点は良い。が、「ひきや伝へむ」の「ひき」を「弾き/引き(立て)」の掛詞、としている点が怪しい。そんな強引な解釈ができるだろうか。一応保留にしておくが、怪しい。

BCの2つの歌は作者がこのエピソードをもとに詠んだ歌である。この時点で⑤もない。⑤はBCの詠者を鷹飼いとしているが、指示語を考えるとおかしいことに気づくはず。歌の直前に「その心にかはりて(詠んだ歌)」とあるが、「その心」というのは当然直前を指す。直前は「家をば売り、女子は人のもとに預けて行く」である。もちろん、預けて行くのは鷹飼いなのだから、「鷹飼いの心」を「鷹飼いの代わりに」詠んだ歌なのである。

ということで③か④に絞られる。

③がおかしいのは「売りに出した家が任務を終えて戻ったときにはなくなっているかもしれないと想定する」の部分。後年、また同じ家に住むつもりで家を売ったとはどうやっても考えられない。

④は無理がない説明なので④。やはり②はない。


問6:表現の特徴を問う問題

①「滑稽な比喩」というほど滑稽ではない。それに「笑いと涙が入り交じる人生の機微」は大げさ。アウト。

②全体的にあり得ないことしか書いていない。論外中の論外、キングオブ論外な選択肢。とこがどう立身出世の物語なのか。会話文中の敬語は人の身分を正確に反映して用いられているとは限らない点に注意。

④「貴族社会に積極的に溶け込んでいく様子が示される」という点がおかしい。鷹飼いは貴族社会から一度はねつけられ、宮人の助力でなんとか救われたのであり、自らの積極性を武器に溶け込んでいったのではない。

⑤「古代の文化にあこがれる陸奥の鷹飼い」がおかしい。書道を志し、結果的に伝統的な書法を手に入れるが、それをもって「古代文化にあこがれる」とは言えない。

ということで、無理なく説明されている③を選べばよい。


ということで、2012年のセンター試験から古文についてでした。

全体的にかなり平易だったと言えるでしょう。

参考にしていただけたらと思ひます。

 

↓メールでのご意見はこちらからどうぞ。(コメントは最下部から)
[contact-form-7 404 "Not Found"]

Posted in 古文

コメントは受け付けていません。