長期連載モノでございやす。
何てことない話といえばそうなんですが、どことなく惹かれるんですよね。
ってことでまず第1話です。
【原文】
大進生昌が家に、宮の出でさせ給ふに、東の門は四足になして、それより御輿は入らせ給ふ。
北の門より、女房の車どもも、まだ陣のゐねば入りなむ、と思ひて、
頭つきわろき人も、いたうもつくろはず、寄せて下るべきものと思ひあなづりたるに、
檳榔毛の車などは門小さければ、さはりてえ入らねば、例の筵道しきて下るるに、
いとにくく腹立たしけれども、いかがはせむ。
殿上人、地下なるも、陣に立ちそひて見るも、いとねたし。〈続く〉
【語釈】
◯「大進」読み:だいじん/たいしん/だいしん
中宮職(ちゅうぐうしき)の三等官。従六位。
◯「生昌」
人名。平生昌(たいらのなりまさ)。
◯「四足」
◯「御輿」読み:みこし
貴人の乗り物。ここでは中宮定子が乗っている。
◯「陣のゐねば」
「陣」とは宮中を警護する衛士。ここでは中宮様の警護をする。
◯「いたうもつくろはず」
「いたく~ず」で副詞の呼応。「それほど~ない」という意味。「いたう」は「いたく」のウ音便。
◯「例の筵道しきて下るるに」
「例の」は重要語で、「いつものように」と訳す。「筵道」は「えんどう」と読み、「筵(むしろ)」で作った道。庭を歩くとき、裾が汚れないように敷く。
◯「檳榔毛の車」
牛車の種類。作者たち女房が乗っている。
【現代語訳】
大進生昌の家に中宮様がお出ましになると、東門は四つ足門で、そこから中宮様の御輿はお入りになったの。
北の門から、女房の車なんかも、「まだ衛士が詰めていないから車で入っちゃお」と思って、
髪の形がみっともない私たちも、あまり整えもせず、建物に寄せて下りることができるものと軽く考えていたのに、
檳榔毛の牛車などは、門が小さいので、つっかえて車は入れないものだから、例によって筵道を敷いて下りたので、
とても憎らしく腹立たしいけれど、どうしようもなかったの。
殿上人や地下の連中まで、衛士の詰め所に寄り添って見ていたのもとっても癪にさわるわ。〈続く〉
中宮様は出産のために内裏を離れますが、これは出産のためです。
一条天皇の第一皇子となる「敦康親王」の出産です。
出産は「穢れ」の一種であり、宮中で子を産むことは許されていませんでした。
実家に戻れば良いのですが、中宮定子の生家は焼失していたのです。
さて、この話はけっこう長いのですが、どんな展開を見せるのか、お楽しみに。
[ 枕草子~大進生昌が家に~(2) ]