枕草子~大進生昌が家に~(3)


~前回までのあらすじ~

1)中宮様が出産のために内裏を離れ、大進生昌の邸にお移りなさることになりまちた。ところが生昌邸の北門は狭くて牛車のまま入ることができず、私たち女房は庭を歩いて屋内に入ることになってしまいまちた。

2)ひどい目に遭ったことを中宮様に報告していると生昌がノコノコやってきたのでガツンと言ってやることにしまちた。

清少納言の攻撃はまだ始まったばかり。

何を言い始めるのか楽しみですね。


【原文】
「されど、門のかぎりを高う作る人もありけるは」といへば、
「あな、おそろし」とおどろきて、
「それは于定国がことにこそ侍るなれ。ふるき進士などに侍らずは、うけたまはり知るべきにも侍らざりけり。
たまたまこの道にまかり入りにければ、かうだにわきまへ知られ侍る」といふ。
「その御道もかしこからざめり。
筵道敷きたれど、みな落ち入りさわぎつるは」といへば、
「雨の降りつれば、さも侍りつらむ。
よしよし、また仰せられかくることもぞ侍る。まかり立ちなむ」とて往ぬ。
「なにごとぞ。生昌がいみじうおじつる」と問はせ給ふ。
「あらず。車の入り侍らざりつることいひ侍りつる」と申して下りたり。〈続く〉


【語釈】
◯「門のかぎり」
「~のかぎり」は「①あるだけ全部/すべて②~だけ」などの意味を表す。ここでは②。

◯「于定国」読み:うていこく
前漢の人で、丞相(≓首相)の地位にあった人。「父の于公は裁判が公平であったことで東海郡で有名となり、生きているうちから祠が作られるほどであった。また住んでいる里の門を再建するとき、于公は「門は立派な車も通れるように大きくしてほしい。私は公平な裁判で陰徳をつんでいるから、子孫が立派な車に乗れるくらい出世するだろう」と言った。」by.Wikipedia

◯「進士」読み:しんじ/しんし
大学寮で文章道(もんじょうどう)を専攻した学生(がくしょう)で、式部省の試験に合格した者。

◯「また仰せられかくることもぞ侍る」
「もぞ~連体形。」は「~するといけない」と、避けたい未来を述べる用法。「もこそ~已然形。」も同様。

◯「あらず」
ここでは感動詞で「いいえ」の意味。


【現代語訳】
私が「でも、門だけを大きく作った人もいたそうよ」と言うと、
生昌は「ああ、恐ろしや」と驚いて、
「それは于定国のことのようですね。古い進士などでございませんでしたら、お聞きしても分かるはずもないですわい。
私はたまたまこの道に入っておりましたので、この程度にだけは分かりましたが」と言う。
「道と言えば、あなたの御道も立派ではないようね。
筵道は敷いていたけれど、みんなぬかるみにはまって大騒ぎだったわ」と言うと、
「雨が降りましたので、そのようにもなったのでしょう。
いやはや、もう結構。また何か難儀なことをおっしゃられてはかなわん。退散しましょう」と言って去ったわ。
すると、中宮様が「なにごと?生昌がずいぶんとおびえていたけれど」とお尋ねになったの。
「いえいえ。車が門を通れませんでしたよ、って言っただけですわ」と申し上げて局に下がったの。〈続く〉


とまあこんな具合に生昌をやりこめてストレスを発散した清少納言ちゃんでした。笑

生昌邸到着の初日からこんな具合ですからこの後どうなっていくのか楽しみですね。

 

 

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