枕草子~五月御精進のころ~(3)


~前回までのあらすじ~

1)五月、雨の日が続いてすることもないのでホトトギスの鳴き声でも聞きに行こう、と出かけることにしまちた。

2)明順さんの家に寄ってホトトギスを聞いて、それからお米を挽く所を見せてもらいまちた。

さて。

ホトトギスを聞きにでかけた清少納言ちゃんと愉快な仲間たちですが。

ホトトギスは聞いたので、そこで歌を詠むのが王朝人のならわしでございます。

が、米挽きなんかを見せられて楽しんでいる間に歌を詠むタイミングを逸してしまいました。

そんな清少納言ちゃんたち、お食事をご馳走になるの巻、です。


【原文】
唐絵にかきたる懸盤して物食はせたるを見入るる人もなければ、
家の主「いとひなびたり。
かかる所に来ぬる人は、ようせずは主逃げぬばかりなど、責め出だしてこそまゐるべけれ。
むげにかくては、その人ならず」など言ひてとりはやし、
「この下蕨は、手づから摘みつる」など言へば、
「いかでか、さ女官などのやうに、つきなみてはあらむ」など笑へば、
「さらば、取りおろして。例のはひぶしにならはせ給へる御前たちなれば」
とて、まかなひさわぐほどに、「雨降りぬ」と言へば、
いそぎて車に乗るに、
「さてこの歌はここにてこそ詠まめ」など言へば、
「さはれ、道にても」など言ひて、みな乗りぬ。


【語釈】
◯「唐絵にかきたる懸盤」
唐絵(からえ)に書かれているような懸盤のこと、とされる。

◯「いとひなびたり」
「ひなぶ」は重要語で「田舎じみている」ということ。何が田舎じみているのか分かりにくい箇所。用意した食事が田舎じみているという謙遜の意か、あるいは、出された食事を食べずにいることが田舎じみているのか、など説が別れているようだ。

◯「ようせずは」
下手をすると、悪くすると、ひょっとすると、などの意味を持つ語。

◯「まゐる」
ここでは「食ふ」の尊敬語。

◯「下蕨」
春、枯れ草の下に隠れている蕨。

◯「女官」
「にょうくゎん」と読むと下級女官、「にょくゎん」と読むと上級女官、という説がある。ここでは文脈からも下級女官のことを言っている。

◯「はひぶし」
腹ばいになって臥すこと。

◯「さはれ」
重要語。「どうにでもなれ」など、覚悟を決めたときや、やけくそになったときに使われる。


【現代語訳】
唐絵に描いてあるような懸盤で食事を出してくれたのを誰も見向きもしないものだから、
主人は「たいそう田舎じみた食事です。
このような所に来た人は、下手をすると家の主が逃げ出さんばかりに責め立てて召し上がるはずなのに。
一向にそうして食事に手をつけずにいるのは都から来た客らしくないですぞ」などと言ってはやし立てて、
「この下蕨は私みずから摘み取ったものです」とか言うので、
私が「どうしてそんな風に女官みたいに並んで座って食事なんてしていられるものですか」なんて言って笑うと、
「では、懸盤から下ろして召し上がれ。いつも腹ばいになってばかりいらっしゃる方たちですからな」
と言って食事の世話をあれこれして騒ぐうちに、誰かが「雨が降ってきました」と言うので、
急いで車に乗るときに、
「そりゃそうと、ホトトギスの歌はここで詠んだ方がいいんじゃないかしら」なんて言うから、
「いいのいいの、帰りながらでも詠めるでしょ」などと私は言って、みんなで車に乗ったの。


今回はここまでです。

前回登場した明順が引き続き清少納言ちゃんとやりとりをします。

明順は中宮定子ちゃんの親戚だけあって明るくて楽しそうな人物ですね。

しかしこの清少納言ちゃんのいい加減さが好きです。

ホトトギスの歌を詠むこともコミで外出許可をとって出かけてきたのに、歌なんかそっちのけです。

おい!また詠まねーのかよ、って感じですね。

さて次回はどう展開するのか、お楽しみに。

 

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