【原文】
つれづれなるままに、ひぐらし硯に向かひて、心にうつりゆくよしなしごとを、
そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ。
【現代語訳】
特にすることもないのをいいことに、一日中硯に向かって、心に浮かんでは消えていくしょーもないことを、
だらだら書きつけていると、不思議とアホらしくなってくることだ。
有名すぎる『徒然草』の序段を、良い感じに(笑)崩して訳してみました。
「つれづれなるままに=特にすることがないのをいいことに」・・・執筆の動機
「ひぐらし硯に向かひて=一日中硯に向かって」・・・執筆状況
「心にうつりゆくよしなしごとを=心に浮かんでは消えていくしょーもないことを」・・・題材
「そこはかとなく書きつくれば=だらだら書きつけていると」・・・執筆の姿勢
「あやしうこそものぐるほしけれ=不思議とアホらしくなってくることだ」・・・執筆時の心境
ということになるんだとかいうのを読んだことがある気がします。
個人的にはそんなのどうでもいいじゃん、って思いますけど(笑)
「暇だったから書いた」っていうのは、今風に言うと「ハードルを下げた」ってことでしょうかね。
まあさておき、この一文はリズムが良いわけでもないのですが、
何だかとても洗練されていて、スッと頭に入ってくるし、声に出して読んでみても良い。
要するに名文だと思うわけです。
が、『知ってる古文の知らない魅力』によると、これは兼好の独創ではない、というんです。
へーーーーー!と思いました。
いくつか証例が挙げられているのですが、一つだけ借用させていただきますと、
いとつれづれなる夕暮れに、端に臥して、前なる前栽どもを、唯に見るよりは、とて
物に書きつけたれば、いとあやしうこそ見ゆれ。(和泉式部正集)
というのがあるんだそうです。
兼好法師が『徒然草』を書いたのは鎌倉時代の最末期とされています。
それに対して、和泉式部というのは紫式部の同僚として中宮彰子に仕えた平安時代の人です。
『徒然草』より300年も前に、上記「和泉式部正集」の文は存在していたのですね。
一種のパロディとも言えるかもしれませんが、そもそも古典文学の世界ではパロディはとても尊重されていました。
古い有名な和歌の一部を借用して作歌することを「本歌取り」といい、
むしろ積極的にパクっていこうぜ、というくらいの勢いなわけです。
日本はそういう風土なので、西欧流の「著作権」というのはあまり馴染まない気がします。
国際社会において無視はできないにせよ、日本に合った「著作権」のあり方を確立してほしいですね。
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