光源氏、と名ばかりが大仰で、「光」などという美名も打ち消されなさるような欠点も多いようですが、
「このような色恋沙汰の数々を後の世にまで伝えては、ますます軽薄だという評判を流すことになるのでは」
とお隠しになった秘め事までも語り伝えたそうで、本当に世の人はおしゃべりなことです。
とは言うものの、たいそう世の中に気兼ねして真面目に振る舞っていらっしゃった光る君のご様子には、
色好みで面白いところはなくて、交野の少将が見たら、きっと笑われたことでしょうよ。
まだ光る君が中将でいらっしゃった時は、内裏にばかりお仕えなさって、
大臣邸には時たま足を運びなさるといった具合でした。
そんなわけで、左大臣家では「密かに浮気でもしているのでは」と疑い申し上げることもあったのですが、
本来ならそのように浮気めいた、世間にありがちな出来心の恋愛などは好まないのが光る君の御性分でして、
ただ、時にはうってかわって尋常でなくあれこれ思いを尽くした恋をお心にとどめなさる癖があいにくとおありなので、
ふさわしくない振る舞いがまったくないというわけでもございませんでした。
※雰囲気を重んじた現代語訳となっております。
いよいよ第二巻「帚木」の巻に突入です。
この巻は何と言ってもこの先の「雨夜の品定め」ですね。
今回出てくる「交野の少将」は現存しない物語の主人公で、平安時代当時、好色な人物の代名詞でした。
現代では光源氏こそが好色の代名詞ですよね。
ここではまだ光源氏が好色ぶりを発揮する前段階で、
・光源氏にも色恋沙汰はある
・しかし出来心による軽はずみな恋は好まないのが光源氏の本性だ
・そんな光源氏をもし交野の少将が見たら笑うだろう
というように語られているわけです。
この部分の語り口調は個人的に好きですね。
<<戻る 進む>>