源氏物語~帚木~(8)


「もともとの家柄と世の評判が一致して高貴なあたりで、内々の振る舞いやようすが劣っているのは、

言うまでもありませんが、どうしてこんな風に生まれたのだろう、とどうしようもなく思われるでしょう。

名声と実態が一致しているとしても、それはそれで当然のことであって、

家柄にふさわしいことだと思われるだけで、別段素晴らしいことだと驚くこともあるまい。

私自身、手が届くはずもない最上流階級のことは置いておきます。

さて、存在すら世に知られずに、寂しく荒れはてた家に、

予想外にかわいらしい女性がひっそりと暮らしているようなのは、この上なく素晴らしく思われましょう。

いったいどうしてこうなってしまったのだろうと、思っていたのと違うところから不思議と心にとまるものです。

また、年老いて、うっとうしく太りすぎた父親や、不細工な兄弟がいて、

きっと娘もたいしたことはないだろうと想像されるその娘の部屋で、

まさにその人がとても誇り高く、ちょっと鳴らし始めた琴やら何やらが素晴らしかったとしたら、

少しの取り柄であるにしても、予想だにしなかったことですから、どうして興味がわかないものでしょうか。

取り立てて欠点のない女性選びということならそういう女性は無理でしょうが、

それはそれとして捨てがたい魅力があるものですよ」と言って、藤式部の丞を見ると、

自分の妹にまずまずの評判があることを念頭に置いておっしゃるのか、とでも思ったのか、黙っておりました。

「いやはや、上流階級だと思うことさえ難しい世なのに」と光る君は思っていらっしゃるに違いありません。

白く柔らかいお召し物に、直衣だけを紐なども結ばずに着崩しなさり、物に寄り掛かっていらっしゃる光る君の姿が

灯火に照らし出されているのはとても素晴らしく、女としてこの姿を拝見したいものでございます。

この御方の相手として、上流階級の中でも最上の女性を選び出してもやはり物足りないようにお見えになりました。

※雰囲気を重んじた現代語訳となっております。


前回、「女性の良し悪しは裕福さで決まるのか?」と言い出した光源氏に、

そうではないということを言っているシーンです。

それにしても「ギャップ萌え」って1,000年も前から脈々と受け継がれているんですねぇ。笑

 

ちなみに、「直衣」は「のうし/なおし」と読んで、貴族の日常服です。

 

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