光る君は母屋の内に侵入なさり、女が一人で寝ているのを見て心やすくお思いになりました。
一段低い廂の間に女房が二人ばかり寝ています。
女の着物を払いのけて近づいてみると、記憶より大柄な気もしましたが、まさか別の女だとは思いも寄りません。
しかし、こんなにされてもぐっすり眠っているというのは明らかにおかしいので、だんだん別人だとお分かりになって、
驚くと同時に腹立たしいのですが、
「人違いでうろたえた所を見られるのはみっともないし、女もおかしく思うだろう。
今から目当ての人を尋ね当てるのも、こんな風に逃げる心があるみたいだから、きっと無駄に終わり、
愚かな男だと思われるだけだろう」とお思いになりました。
また、「あの魅力的な女ならば、それはそれで良い」ともお思いになったのは、浅はかだと言わざるを得ませんね。
女はようやく目が覚めると、たいそう思いがけないことに驚き、呆然としているようでしたが、
これといった思慮深さもなく、気の毒な気もしませんでした。
男と女というものを分かっていない割には、恋の風情を知っているかのようで、女々しくうろたえたりもしません。
光る君は「自分の素性は明かすまい」とお思いになりましたが、何かの拍子に事情が知れてしまったら、
自分自身にとってはどうということもないのですが、
あの頑固なまでに世間体を気にしている女君はさすがにかわいそうなので、
方違えにかこつけて度々ここを訪れたのはあなたとこうなるためだったのだと、言葉巧みにおっしゃるのでした。
思慮深い人ならば本当の所が分かるのでしょうが、この女はまたとても若く、
ませているようではありますが、そのような深い所までは考えが及びません。
光る君は、この女に対して、嫌いではないものの、お心にとまりそうな点もない気がして、
やはりあの小癪な女君のことで頭がいっぱいといった感じでいらっしゃいます。
「どこに隠れて、私のことを愚か者だと思っていることだろう。ここまで意固地な女というのも珍しいことだ」
とお思いになるにつけ、ますます忘れがたく思い出されてくるのでした。
しかし、無邪気で若々しいこの目の前の女の雰囲気もしみじみ心を惹かれるので、
いかにも情愛が深い風に、将来についてお約束をなさいました。
※雰囲気を重んじた現代語訳となっております。
あのね、本当に光源氏っていい加減ですよね。(-_-;;
それでも抗えない光源氏の魅力ってのも腹が立つというか羨ましいというか。。。笑
物語の語り手は女性を設定しているので、光源氏に対して言いたいことはありそうです。
『源氏物語』は光源氏がいないと成立しないのは分かりますが、
どう見ても、光源氏よりも、光源氏に翻弄される女性達の物語ですよね。
登場する女性が増えていくにつれ、この物語は面白くなっていきます。
「空蝉」の巻もあと数回で終わりますが、これが終わるとついに夕顔ちゃんの登場です。
数多い女性達のなかでも特に魅力的に思う登場人物の一人が夕顔ちゃんです。
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