「世間で公認の恋よりも、このような関係の方が愛が深まるものだと、昔の人も言ったものです。
私のことを愛してくださいよ。
私は自由に行動することが難しい身の上だから、心のままにこちらへ来ることができずにいたのです。
しかし、あなたの親も、この恋を許さないだろうと思うと、今から胸が痛みます。
それでも、私のことを忘れずに待っていてくださいね」などと、陳腐なことをおっしゃいました。
すると、女は、
「人がどう思うか、それを考えると気恥ずかしくて私からはお手紙も差し上げられません」
と素直な気持ちを言いました。
「このことを広く人に知らせるのはまずいが、私からはここの殿上童をしている小君を通して手紙をお届けしよう。
あなたは悟られないよう、何気なく振る舞ってください」
などと言い残して、あの逃げた女君がそっと脱ぎ捨てた薄衣を取って光る君は出て行きなさいました。
近くに小君が寝ていたのを起こしなさると、
成功するかどうか、心配しながら寝ていたのですぐに起きました。
妻戸をそっと押し開けると、年配の女房の声で、
「そこにいるのは誰?」と大袈裟に尋ねかけてきました。
うっとうしく思いつつ、小君が「僕ですよ」と返事をします。
「どうしてこんな夜中にあなたはお出かけになろうとしているのですか」
と、いかにも分別があるように言って、こちらにやって来ました。
小君はとても憎らしく思って、
「何でもないよ。ちょっと出るだけ」と言って、光る君を渡り廊下に押し出し申し上げましたが、
夜明け前の月が明るく照らして、ふと人影が見えたものですから、先ほどの女房が、
「もう一人いらっしゃるのはどなた?」と尋ねてきました。
しかし、どうやら早合点したようで、
「ああ、民部さんのようですね。なんとも高い背丈ですこと」と一人で解決してしまいました。
背が高く、いつも笑われている女房がいたらしく、その人と勘違いしたようでした。
※雰囲気を重んじた現代語訳となっております。
ちょっと油断しているうちにしばらくぶりの『源氏物語』となってしまいました。汗
「空蝉」の巻はあと3~4回で終了です。
今月中には終わらせますね。
空蝉に逃げられた光源氏でしたが、何とか軒端荻とは関係をつなぎました。
しかし女房にあわや見つかるのでは、というところまでいきかけましたが、
この女房が早合点してくれたおかげで難を逃れたかのように見えますが・・・。
まあ続きは近日中に。
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