源氏物語~空蝉~(11)


光る君はしばらく横になっていらっしゃいましたが、お眠りになれずにいました。

そこで、硯をお取り寄せになり、きちんとしたお手紙という風ではなく、ただの手習いのように気ままにお書きになりました。

空蝉の身をかへてける木の下に猶人がらのなつかしきかな
〔脱皮をした蝉が木の下に抜け殻を残すように、上着だけを残して姿を消してしまったあなたですが、その人柄にやはり心が惹かれてなりません〕

とお書きになった手紙を、小君は懐にしまって持ち帰りました。

「もう一人の女も、私をどう思っているだろう」と気の毒な気はしましたが、

色々と考えあわせた結果、そちらには手紙をお書きになりませんでした。

例の薄い小袿は、慕わしい残り香が染み込んでいるので、光る君は身近に置いて見ていらっしゃるのでした。

小君が邸に行き着くと、姉君は待ち迎えて、厳しくおっしゃいました。

「呆れた。

表向きはどうにかごまかしても、人があれこれ推測するのは避けられないのに、本当に馬鹿げたことです。

お前の幼稚さを、光る君様もどう思っていらっしゃることかしらね」

といって、恥じ入らせなさいます。

板挟みにあった小君は苦しい立場ですが、光る君の手紙を取り出しました。

さすがにそれを打ち捨てるわけにもいかず、女君は受け取ってお読みになります。

あの脱ぎ捨てた着物は、どうだろう、汗臭かったりはしないだろうか、などと思うと、たまらない気持ちになり、

様々に心が乱れておりました。

西の対の女君も、気恥ずかしく思いながら自分の部屋へとお帰りになりました。

この件に関しては他の誰も知らないことなので、人知れず物思いに沈んでおりました。

小君が部屋の前を通りかかると、期待に胸が膨らむのですが、光る君からのお手紙はありません。

騙されたのだと気づくわけもないとはいえ、脳天気な心の内にもさすがにもの悲しい気持ちがしたことでしょう。

つれない女君も、気落ちしていましたが、軽いお気持ちでもなさそうだったことを思うと、

独り身だったならば、と我が身を恨んでみてもどうなるわけもないのですが、

光る君を恋しく思う気持ちはどうにもこらえきれず、贈られてきた懐紙の端にこう書き記すのでした。

空蝉の羽におく露の木がくれてしのびしのびに濡るる袖かな
〔蝉の抜け殻の羽根におりた露が木蔭にかくれて見えないように、私も密かに涙を流し、袖を濡らしていることです〕

※雰囲気を重んじた現代語訳となっております。


引っ越しの影響で少し予定が狂いましたが、ついに終わりました、「空蝉」巻。

短かったですね。

本心では光る君の愛人になりたかった空蝉ちゃん。

最後まで夫への操を立てました。

ラストの歌も、光源氏からきた手紙の端に書いただけで、送り届けてはいません。

ちなみに、この空蝉の歌は、伊勢という女流歌人が詠んだもので、

空蝉オリジナルの歌ではなく、ふと思いついた歌ということになります。

 

さて、次の巻は「夕顔」です。

かなりドラマティックな内容なので楽しみですね♪

 

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