源氏物語~夕顔~(15)


「さあ、落ち着ける所でゆっくりとお話でもしたいものですね」

などとお話しになると、

「やはりおかしいですわ。そうはおっしゃいますが、普通ではないお振る舞いですから何となく恐ろしい気がして」

と、とても幼げに言うので、「確かにそうだな」と思い、にっこり微笑みなさって、

「どちらが狐でしょうね。でもまあ、化かされていらっしゃればいいじゃないですか」

と親しみやすくおどけた風におっしゃると、女も光る君に心を寄せて、それもそうだわ、と思っていました。

「このような密会はこの上なく見苦しいことなのかもしれないが、一心に私の言うことを聞く、とてもかわいらしい人だ」

とご覧になり、やはり頭の中将が語った「常夏の女」ではないかと思われて、

あの時に語っていたことがまず思い出されなさるのですが、

隠すだけのことがあるのだろう、と無理にはお尋ねになりません。

頭の中将の前からふいに姿を消したという話でしたが、そのような心など、表だっては見えないので、

「私が会いに来ないでいるような間に、そんな風に心が変わることもあるのかもしれない。

我が心ながら、他の女性に少し心が動くことがあるのがどうにも情けない」とまで思っていらっしゃいました。

八月十五夜、満月の光が、隙間の多い板葺きの屋根から差し込んでくる、

このような粗末な住居も光る君にはとても新鮮でございました。

夜明けが近づいてきたのでしょう、隣家で身分の低い男たちが目を覚まして交わす声が聞こえてきました。

「ああ、こんなにも貧しいのがなあ」

「今年は、本業の商売も地方への出稼ぎもあてにならないから、とても心配だよ」

「おーい、北隣さんよ、聞いてらっしゃるかね」

などと話しているのでした。

切ないほど心細いそれぞれの生活のために起き出して、ざわざわと騒いでいるのが間近に聞こえるのを、

女はとてもきまり悪く思っていました。

優雅に気取った振る舞いをするような人なら、きっと気を失ってしまうに違いない、みすぼらしい住まいのようです。

しかし、この女はおっとりして、つらいことも嫌なこともみっともないことも、深く気にしている様子ではなくて、

自分自身の振る舞いや様子は、たいそう上品であどけなく、

例えようもないほど乱雑で無神経な隣近所の会話の内容については、よく分かっていない様子なので、

かえって顔を赤らめて恥ずかしがるのより、欠点として目立たないように感じられるのでした。

※雰囲気を重んじた現代語訳となっております。


八月十五夜~からは、実はテキストにも採用されている文章です。

授業はもっとつまらない直訳ですけどね。

 

夕顔の魅力ってとてもよく分かる気がします。

「かわいい/ややミステリアス/従順/か弱い」という、この放っておけない要素がすべて盛り込まれた魅惑の女。

それが夕顔ちゃんです。

『源氏物語』序盤の最強女子ですね。

まあ従順といっても、それは相手がイケメン貴公子=光源氏/頭の中将だからなんですけどね、どうせ。

ε=(。・`ω´・。)プンスカプン!!

 

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