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源氏物語~賢木~(24)

「春宮を私の養子にして、などと亡き父院がおっしゃっっていたので、特別に目を掛けてきましたが、あからさまに別格扱いをするのもどうかと思ってね。幼い割には字なんかも立派にお書きになっていましたよ。すべてにおいて不甲斐ない私の面目を施してくれる存在になるだろうな」
などとおっしゃると、
「おおよそ、なさることなどは非常に利発で大人びた感じでいらっしゃるのですが、まだまだ未熟で」
などと申し上げて退出なさいました。
その時、皇太后の兄上である藤大納言の子で、頭の弁の位に就いている方の姿が見えました。
頭の弁は時流に乗っている美しい若者で、何の悩みもないのでしょう、妹がいる麗景殿の御方に行くので、光る大将の君が忍びやかに先払いをなさると、頭の弁はしばらく立ち止まって、
「白紅日を貫けり。太子懼ぢたり」
〔謀叛の兆しがある。しかし春宮はその失敗を懼れている〕
と非常にゆったりと朗詠したのを、光る大将の君は非常に不愉快にお聞きになりましたが、咎めることはできません。
皇太后の御性質はとても恐ろしくて厄介だという風にばかり聞いていたが、こうしてその親族の者までもが表立って煩わしいことを度々言うようなので、鬱陶しくはお思いになったのですが、何事もないように平然と振る舞っていらっしゃるのでした。
藤壺中宮の許に参上なさり、
「上様の御前にお仕えして今まで夜更かしをしておりました」
と申し上げなさいました。
月が美しく差し昇っているのを御覧になると「このような時、先帝は管絃の宴を催しなさって、華やかにもてなしてくださったわ」などと思い出しなさるにつけ、同じ内裏でありながらも変わってしまったことが多く、悲しいことでした。
「九重に霧やへだつる雲の上の月をはるかに思ひやるかな」
〔宮中には霧がかかって私を隔ててしまったのでしょうか。雲の上の見えない月に遠く思いを馳せることですよ。帝との間に深い隔たりができてしまいました〕
と、王命婦を通して光る君にお伝えなさいます。
間近いので、藤壺様の御気配もかすかに感じられるのに心が惹かれ、これまでの冷淡な仕打ちもお忘れになって涙がこぼれ落ちるのでした。
「月影は見し世の秋にかはらぬを隔つる霧のつらくもあるかな
〔月はかつて見た秋と変わりませんが、隔てるように霧がかかっているのはつらいことです。私にとっては中宮様との間にある隔たりが悲しくございます〕
『霞にも人の心がある』などと昔の歌にあったのと同じことでしょうか」
などと申し上げなさいます。
中宮様は春宮と離れがたくお思いになって様々なことを申し上げなさいましたが、あまりよくお分かりになっていないようなので、非常に心配なお気持ちになるのでした。
普段はとても早くにお休みになるのですが、今日は「母宮様がお帰りになるまで起きていよう」とお思いになっているのでしょう。
お別れなさることを寂しくは思っていらっしゃるようでしたが、さすがに後を慕ってついてこようとはしないのを、中宮様はたいそうしみじみ感慨深くお思いになるのでした。
※雰囲気を重んじた現代語訳です。

帝のもとを下がった光源氏はお目当ての藤壺中宮のもとに向かいます。
途中、政敵である皇太后の一味と遭遇し、「どけや」と軽くいびったのですが、今や勢いに乗っている右大臣の一族は光源氏を見てもビビりません。
それどころか、
「白紅日を貫けり。太子懼ぢたり」などと言い出す始末。
っていうか、ナニコレ?
というと、想像通り漢文の典籍からの引用文なのですが、解説はこちらを御覧あれ。
上に訳出した通り、光源氏の謀叛を疑っているという内容です。
要するに、「お前は今上帝を廃して今の春宮(桐壺帝の子ということになっているが、光源氏と藤壺との間の不義の子)を即位させようとしているのだろうが、どうせ失敗に終わるぞ」という意味をこめているのです。
帝ご自身は非常に穏やかで優しい方なのですが、その取り巻きは強烈に攻撃的な人物が目立ちます。
そんな空気を感じて人一倍恐怖しているのは、もちろん春宮の母親である藤壺中宮ですね。
この当時は、春宮(皇太子)の座についても決して安心はできませんでした。
権力者の陰謀により春宮を退かされるという事件が実際に起こっています。
それに比べて光源氏は暢気だな。笑
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