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源氏物語~賢木~(17)

夜がすっかり明けたので、二人の女房が危険をご忠告申し上げると、中宮様は半分魂を失ったかのようなご様子でいらっしゃるのが心苦しいので、
「この世の中に生きていると中宮様のお耳に入れるのもとてもみっともないので、このまま死んでしまいたいような気持ちにもなるのですが、それもまた罪が来世に持ち越されることでしょう」
などと申し上げなさるのは、異様なほどの御執心です。
「逢ふことの難きを今日にかぎらずはいま幾世をか嘆きつつ経ん
(逢瀬の難しさが今日だけでなくずっと続くものであるならば、何度生まれ変わっても嘆きながら生きてゆくことになるのでしょう)
この叶わぬ恋の情念があなたの成仏をも妨げるに違いありません」
と申し上げなさると、中宮様もさすがにお嘆きになって、
「永き世のうらみを人に残してもかつは心をあだと知らなむ」
(永久の恨みを私に残すといくら口でおっしゃっても、あなたの心はすぐ変わるものだと知ってください)
光る君のお言葉をまったく信頼していないようにおっしゃるご様子は甲斐のない心地がしましたが、中宮様のお気持ちを考えてみても、自分自身にとっても心苦しいばかりなので、取り乱したまま退出なさるのでした。
「どんな顔をして再びお目にかかることができようか。気の毒だと同情してくださるころまでは…」とお思いになってお手紙もお書きになりません。
内裏にも春宮のところにも参上なさらず、ずっと御自邸にお籠もりになって、寝ても覚めても「とても薄情なお方だ」と恋しくも悲しくもお思いになっている様子はみっともないほどで、魂を失くしておしまいになったのでしょうか、ご病気を患ったような気さえしてくるのでした。
何となく心細くて「どうして、こんなにも生きているとつらいことばかりが増えていくのか」と出家を決心なさろうとするのですが、とてもかわいらしい紫の姫君が心から光る君を頼りにしていらっしゃるのですから、それを振り捨てて仏門に入るなどというのはとても無理なことでした。
※雰囲気を重んじた現代語訳です。

ようやく引き上げた光源氏ですが、意外と早い時期から出家願望を抱いているのです。
傍から見て恵まれた人にも意外と悩みがあったり、順風満帆に見えても意外と満たされていなかったりするのが人間なのでしょう。
『源氏物語』と心理学、というのは昔からよく組み合わさってきました。
こんな風に。
実際にそういう文献は読んだことがありませんが。
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