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筆者プロフィール
職 業:一色塾古文講師
趣 味:音楽鑑賞
前 世:清少納言
信 仰:松原夏海
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源氏物語~賢木~(8)
霧がひどく立ちこめて並々ならぬ雰囲気が漂う朝ぼらけの中、ぼんやりと物思いに耽りながら独り言をつぶやきなさいます。
「行く方をながめもやらむこの秋は逢坂山を霧なへだてそ」
〔あの方が行ってしまった方をぼんやりと眺めていよう。霧よ、この秋は逢坂山を隠さないでくれ〕
紫の君がおいでになる西の対にもお渡りにならず、誰のせいというわけでもなく、寂しげに一日中物思いに沈んでいらっしゃいました。
まして、旅の空にある六条御息所はどんなに物思いの種が多かったことでしょうか。
ところで、桐壺院ですが、御病気が神無月になって非常に重くなり、世の中に悲しみ申し上げない人はいません。
帝もお嘆きになってお見舞いにお出掛けになります。
衰弱しつつも、春宮のことを念入りに申し上げなさって、次には光る大将の君のことを、
「私が生きている時と変わらず、大小何事においても後見人と思いなさい。年齢の割には、世を治めるのに少しも差し障りないように思われます。間違いなく世の中を保つ相を持った人です。だからこそ、皇位継承を争うような煩わしさを避けるために親王にもせず、臣下として朝廷の後見をさせようと思ったのです。その心を引き継いでください」
と、しみじみ胸を打つ御遺言が多くありましたが、女の私が政治についてとやかく語るべきではないので、こうしてその一端を書き記すだけでもきまり悪くござます。
帝も非常に悲しくお思いになって、必ずや御遺言をお守りすることを何度もお約束なさいました。
帝の御容貌もたいそう美しく成長なさっているのを御覧になると、嬉しくまた頼もしくお思いになりました。
いつまでも留まっていらっしゃるわけにはいかないので、すぐにお帰りになってしまわれるにつけても、かえってお見舞いの前よりもいっそう悲しみが増したようにも思われなさるのでした。
春宮も一緒にお見舞いにとお思いになったのですが、それではあまりに大仰になってしまうので、別の日にお出でになりました。
御年齢のわりには大人らしくかわいらしいお姿で、恋しく思い申し上げなさりつつも随分とお会いできずにいたので、院が御病気であることなどはあまり分からないままに、ただただ嬉しくお思いになって、お会いになる様子は非常にあわれ深いものがあります。
藤壺中宮様が涙に沈んでいらっしゃるのを御覧になるにつけても、院は様々にお心が乱れなさるのでした。
様々なことをお聞かせ申し上げなさるのですが、春宮はまだ幼くて分別もないお年頃なので、心配で悲しいお気持ちになりました。
光る大将の君にも、朝廷にお仕えなさるお心構えや、この春宮をお助けになるようにということを、繰り返しおっしゃいます。
夜が更けると光る君も春宮もお帰りになりました。
大勢のお供がみな付き従ってお帰りになる時の騒ぎは、帝のお出掛けと見分けがつかないほどの盛大さでした。
まだまだ話し足りないのにお帰りになってしまったことを、院は非常に寂しくお思いになっておりました。
※雰囲気を重んじた現代語訳です。
六条御息所が伊勢に旅立つと、話は変わって、桐壺院の容態が悪化して遺言を残しているシーンです。
「藤壺中宮様が涙に沈んでいらっしゃるのを御覧になるにつけても、院は様々にお心が乱れなさるのでした」
と出てきますが、藤壺の涙はもちろん夫である院の容態を案じてのものでしょうが、ひょっとしたら背徳感も交じっているかも知れません。
一方の院も「様々に」心が乱れているのですが、自分の余命のことや幼い春宮の将来に対する心配、藤壺が隣で泣いていること、などの他、藤壺の涙に潜んでいる背徳感にも気づいているのかも知れません。
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Posted in 古文
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